石井志をんの旅行記 ドンデエスタマチュピチュ(4)

石井志をん「マチュピチュ」

ドンデエスタマチュピチュ(4)

石井志をん

調べてみるとペルーのリマ空港は標高34メートルの所に位置する、目指すクスコは標高3399メートルである。その標高差3300メートル以上を1時間20分で飛ぶのだから心配なのは高山病である。初めて見るペルーの山脈を眺めて眼下に赤い瓦屋根の街が眼に入った時には、ああ、遂にクスコにやって来たのだと言う思いが胸に迫る、この時をどれ程夢見たであろうか。雲一つ無い青空の下、端から端まで赤い瓦屋根の続く街クスコはかつてペルーの首都であったと言う。流石に想像以上に偉大なる都市である。感慨に耽る暇もなく飛行機は着陸し、私は地上に吐き出された。

ゲイトを出ると通路の先に張ったロープの向こうで小太りの若い男が「KEIKO」と書かれたカードを掲げていた。ほっとするのと嬉しいのとで思わず手を振ると男も笑顔で手を振り返した。運転手が空港を抜けると町は工事中の処が多く、狭くごみごみしていてお世辞にも綺麗とは言い難い、途中でピックアップした職員は流暢な英語で私をホテルに案内すると明日からの旅のパッケイジの説明にとりかかった。パッケイジの中身は公園の入園の切符、往復の電車の切符等などで、決して無くしてはならぬと言い含められた。

その後で案内されたホテルの部屋は二人用の広々とした清潔な空間であった。

話に聞いた恐ろしい高山病の症状は出ていない、頭痛、吐き気、眩暈も無い。ただし家を出てからほぼ二日の間一睡もしていない身体に力が無く意識は朦朧としていた。飛行機の中でトイレに立つのを避ける為に水分を控えたのも後から考えると自殺行為に近い。

高山病予防に効くコカ茶をたっぷりと飲んだ後で大きな快適なベッドで手足を存分に伸ばして殆ど前後不覚に熟睡して翌朝を迎えた。途中で眼が覚める事も無く眠ったのはコカ茶のコカインのせいに違いない。

朝食はたっぷりのフルーツ、トーストにペイストリー、各種飲み放題のフルーツジュースに珈琲紅茶が付きそれにオムレツを焼いてくれた。樹で熟したアヴォカドのクリーミーな事と言ったら普段食べているのとは別物である。日本で昔見たカラスウリに似たフルーツは「何ですか」と尋ねるとウエイトレスが卵を割るように殻を割ると中身は甘いゼリーが包む米粒より少し大きな種子である。お通じが良くなりますよと言うウエイトレスの勧めもあって私はそれをスプーンで掬って美味しくいただいた。が、カエルの卵のようなズルズルした物は人によっては苦手かもしれない。

さて、食事の後はロビーに出てその日のツアーガイドを待つのだが、それらしき人は待てど暮らせど現れる様子が無い。

(続く)