世羅先生のロサンゼルス源氏物語講座紹介ビデオ (2025年10月16日録画)ロサンゼルスで日本文化を紹介する英語メディア Cultural News (カルチュラル・ニュース https://www.culturalnews.com)は2020年7月から、鳴門教育大学名誉教授の世羅博昭先生(広島市在住)を講師に迎え「ロサンゼルス源氏物語セミナー」を毎月第三水曜日午後6時(ロサンゼルス時間)をこれまで、5年間続けてきました。
このビデオは「ロサンゼルス源氏物語セミナー」の内容を紹介しています。
このオンライン・セミナーは1回の参加費が30ドルですが、無料体験をすることができます。このオンライン講座に興味を持たれた方は、カルチュラル・ニュース編集長、しげひがし(東繁春) higashi@culturalnews.com へ連絡ください。セミナー参加のズームリンクとセミナーで使う資料のダウンロードリンクをお知らせします。
ロサンゼルス源氏物語セミナーへのリンク:https://digest.culturalnews.com/?cat=3065
2024年2月 / 広島の中国新聞が世羅博昭先生の「紫式部の心読み解くリモート講義=ロサンゼルス源氏物語講座」を紹介: https://digest.culturalnews.com/?p=18862
日本の古典文学の勉強は①現代語訳を使っての理解、②作品の一部を取り上げて、その部分を詳しく解説をする-の二つの方法が一般的でした。 世羅先生の教授法は、作品全体のストーリーの理解から入り、その作品の全文、あるいは、ひとつのまとまったストーリーを原文で読んでいくという方法です。
世羅先生は高校生に古典文学を読み解く力をつけるための授業を広島県で20年間行い、その後、教育学者として長崎大学、鳴門教育大学、四国大学で教えられてきました。現在は、鳴門教育大学名誉教授、四国大学名誉教授です。世羅先生は、江戸時代に作られた「源氏物語」の注釈解説書を原点とされ、現代人に理解できる傍注資料を作ってこられました。
世羅先生の40年間の蓄積がある傍注資料を使って、1000年前の日本語テキストを読んでいきます。
「ロサンジェルス 源氏物語講座」紹介ビデオ(2025年10月16日、ロサンゼルスで録画)
参加者
世羅博昭先生(鳴門教育大学名誉教授、広島市在住)
しげひがし(東 繁春)ロサンゼルス・カルチュラルニュース編集長 Sakai Mayumi (ロサンゼルス在住)
Matsumura Seiji (カリフォルニア州オレンジ・カウンティー在住)
Fujumura Seiko (カルフォルニア州オレンジ・カウンティー在住)
『源氏物語』を読む(三)「桐壺」巻を読む① 2025年10月16日 ロサンゼルス源氏物語セミナー紹介ビデオで使った資料ダウンロードリンク:https://digest.culturalnews.com/wp-content/uploads/2025/10/20250118-Sera-Genji-Los-Angeles-Demo-Text.pdf
世羅博昭先生: 前回は、西暦1010年頃には書かれていたという、世界最古の長編物語である『源氏物語』がどのような内容の物語であるのか、源氏が主人公である「第1部」33帖と「第2部」8帖、薫が主人公の「第3部」13帖、計54帖の内容を、その展開のさせ方に着目して、その概要を紹介してきました。
今回から、『源氏物語』の本文を「傍注資料」をテキストにして読んでいきます。この「傍注資料」は、私が開発したテキストで、本文の右、左に「注」が付けてあります。ゆっくりとした朗読を聞きながら、本文の特に「右側」に付けた「注」を読んでいくと、本文の大体の内容が分かるように工夫してあります。
今日は、「第1部」の最初の卷、「桐壺」卷の「書き出し」の、また、その「書き出し」の冒頭を取り上げて、主人公・源氏がどのように登場させられているかを読んでいきます。 それでは、「書き出し」をゆっくり朗読してもらいます。 皆さんは、本文の「傍注」にをやりながら、朗読をお聞きください。
藤村さんの朗読:いづれの 御時にか 女御、更衣 あまた さぶらひける なかに、いと やむごとなき 際には あらぬ が、すぐれて 時めきたまふ ありけり。 はじめより 我は と思い上がりたまへる 御方々、めざましき ものに おとしめ そねみたまふ。同じ ほど、それより 下臈の 更衣たちは まして 安からず。 ●
「桐壺」巻の描き方
世羅先生:皆さん、朗読を聞きながら、「あれッ、変だなあ」と思ったことはありませんでしたか?…。先ほど、私は、「主人公源氏がどのように登場させられているかを読んでいきます。」と、言いましたが、この「書き出し」の一文には、誰が登場させられていましたか。
皆さんがよくご存じの、『竹取物語』は「今は昔、竹取の翁という者ありけり。」、そして『伊勢物語』は「昔、男ありけり。」というように、物語の冒頭の一文には、いずれも、その物語の「主人公」が紹介されています。 ところが、この『源氏物語』の冒頭は、これまでの物語の書き出しとは違って、誰が、場するように書かれていますか。「傍注」を参考にして、考えてみてください。
冒頭の一文は、「いづれの御時にか、女御、更衣あまたさぶらひたまひけるなかに、いとやむごとなき際にはあらぬが、すぐれて時めきたまふ、ありけり。」と、書かれています。
…分かりましたか?…そうです。登場人物は、「女御、更衣あまたさぶらひたまひけるなかに、いとやむごとなき際にはあらぬが、すぐれて時めきたまふ」人ですね。
すなわち、「この天皇の奥方には、女御、更衣がたくさんお仕えしていたが、その中に、たいして高貴な身分ではない方が、天皇から格別に寵愛を受けていらっしゃる方」が、あったとあります。短くまとめれば、「天皇から格別に寵愛を受けている、たいして身分の高貴ではない方(女性)」が紹介されていますね。
とすると、「書き出し文」で紹介された人物は、『源氏物語』第1部の主人公の「源氏」ではなく、「時の天皇から格別に寵愛を受けている女性」ということになります。これは、これまでの『竹取物語』や『伊勢物語』のように、その物語の主人公を紹介したのとは大きく違った「書き出し方」です。
実は、後を読むと分かることですが、『源氏物語』の冒頭は、主人公・源氏の母親の紹介から書き出しているのです。なぜ作者・紫式部が、これまでの物語と違って、新たに『源氏』第1部の主人公・源氏ではなく、源氏の母親から書き始めたのか、この問題は今後の課題として残しておきましょう。
- 「桐壺」の巻、冒頭一文の内容:天皇から寵愛を受ける桐壺更衣
世羅先生:次に、この「書き出し」の一文の「内容」についてみていきます。この天皇には、「女御、更衣」が「あまた」、奥方としてお仕えしていたとありますが、この『源氏物語』の中には、「天皇の奥方」としては、皇后(中宮)・女御・更衣の身分の人たちが登場してきます。身分制度の厳しい、この時代は、「女御」の位には、父親が太政大臣・左大臣・右大臣・内大臣などの上達部の娘しかなれませんでした。
父親が大納言・中納言などの殿上人の娘は、「更衣」の位にしかなれませんでした。
この時の天皇には、たくさんの女御や更衣が奥方としてお仕えしていたとありますが、その、たくさんの女御・更衣たちが、宮中のどこに住んでいたのかを示す「地図」を資料に掲げておきました。資料を御覧ください。
この資料は、「内裏」の図です。天皇が日頃住んでいる御殿は、図の中央左側にある「清涼殿」です。清涼殿の右下側にある「紫宸殿」などは公式の行事などで使われる建物があります。それに対して、清涼殿より右斜め上の「承香殿」より上側にあるたくさんの建物は、天皇の私生活の場で、「後宮」と呼ばれ、天皇の奥方たちの住む御殿が、「7殿5舎」、全部で12の、天皇の奥方たちが住む御殿があります。
清涼殿に近い御殿である「弘徽殿」や「藤壺」などには、父親が皇族の娘や、大臣の娘で「女御」と呼ばれる女性が住んでいました。更衣の身分の女性は、清涼殿から遠く離れた所にある「桐壺」(淑景舎)などに住んでいました。源氏の母親の「桐壺更衣」は、父親が大納言ですでに亡くなった後に入内しましたので、身分も「更衣」で、清涼殿から最も遠い「桐壺」の御殿に住んでいました。それで、「桐壺更衣」と呼ばれていました。
この「書き出し」の一文を読むと、この『源氏物語』が「書かれた当時の読者は、すぐに、これは後宮で何か大変なことが起こるに違いないと、思ったはずです。この「書き出し」の一文は、それだけ、大きな問題が起こる内容を含んでいるのです。当時の読者が、なぜ、そのように思ったのか分かりますか。
さらに、この一文を読むと、この天皇には、天皇の正妻である「皇后(中宮)」(定員は1名)が存在しません。当時、「皇后(中宮)」には、父親が皇族の者か、摂政・関白の位についている者の娘しかなれませんでした。ということは、この天皇には、摂政・関白の位についた者がいなかったということになります。ということは、この天皇は、天皇自身が政治の実権を握り、政治を執行していたということを意味します。このことは、後で問題にします。頭に止めて置いてください。
- 「桐壺」の巻、冒頭一文の内容 2:女御・更衣たちの反応 ① 女御・更衣たちの反応
世羅先生:では、当時の読者が心配したことが、この後、起こります。次の二文には、天皇が、たくさんの女御、更衣たちがいる中で、たいして高貴な身分ではない女性を特別に寵愛すると、後宮で何が起こるか、女御、更衣たちの反応の仕方が書かれています。
この第二文には、「同じほど、それより下臈の更衣たちは」、「天皇から格別に寵愛を受けている女性と同じ身分、また、それより下臈の更衣たち」とありますから、ここで初めて、、「天皇から格別に寵愛を受けている女性」は、「更衣」の身分であることが分かります。 更衣の位には、上臈・中臈・下臈と、三つの身分の違いがありましてので、この「天皇から格別に寵愛を受けている女性」は「中臈の更衣」ということになります。以下、この女性を「天皇から格別に寵愛を受けている更衣」と呼ぶことにします。
以上のことを理解した上で、まず、「はじめより我はと思ひ上がりたまへる御方々、めざましきものにおとしめ、そねみたまふ。」の内容を読み解いていきましょう。
「傍注」を手がかりに現代語訳すると、「入内した当初から〈自分こそは天皇から寵愛を受けることができるであろう〉と自負しておられた御方々は、この天皇から格別に寵愛を受ける更衣のことを癪に障るものだとさげすんだり、妬んだりなさる」と、訳せましょう。
「御方々」とは、女御と上臈の更衣たちのことを指しています。天皇の奥方の中でも、「御方々」は天皇の所に入内した初めから、「我は、天皇の寵愛を受けることができるであろう」と自負心を抱いていた。
それがそうでない事態が起こったものだから、その特別に寵愛を受ける更衣を、癪に障るものとして、「おとしめそねみたまふ」のであった。「おとしめ」は、身分の上では、彼女に対して優越感をもって、上から目線で、彼女を身分が低いくせにとさげすむとともに、その一方で、格別に寵愛を受ける彼女に対して、劣等感を抱いて、嫉妬しなさったというのである。
優越感と劣等感とが複雑にからんだ「御方々」の屈折した心情がみごとに「おとしむ」「そねむ」という二つの動詞を使って描き出されています。
