石井志をんの短歌研究、家族の歌 松江久志「花宇宙」春の巻 (その十六)

石井志をんの短歌研究、家族の歌

松江久志(まつえひさし)「花宇宙」春の巻 (その十五)

 

 

「返り咲く李の白き花を見て風無き野辺を母と歩みぬ」

「しばらくを病母と佇ちいて花李見ておることは切なきものよ」

 

松江久志の著書「花宇宙」副題「松江久志の植物短歌歳時記」より

 

母を詠った歌である。最初の歌は元気だった頃の母と歩いている。返り咲くとは時節ではないのに咲くとか狂い咲くと言った意味がある。暖かく風の無い小春日和でもあろうか、母と歩き始めた野辺に予期しなかった李の花が咲いていた。喜ぶ母を見て孝行息子は幸せをかみしめている。

対照的に二番目の歌に出てくるのは歩く事もままならぬ病いを得た母である。車椅子に乗っているのかもしれない。二人は佇んで李の花を見つめる、飽かず李の花を見る母、歩けなくなっても花を愛する母の心根は変わらない、そんな老いた母を見つめる歌人の胸に切なさが漲る。

母にまつわる幸せな思い出と切ない思い出の対比が李の白い花のように愛しい。

 

「李

スモモ

Prunus salicima

Pilum .,Prune

バラ科落葉小喬木 中国原産

【花言葉忠実 貞節 約束を守ってください】」

 

「花宇宙」より

 

歌人 石井志をん 千葉県出身、カリフォルニア、サンタクルーズ、フェルトン市在住、日刊サン短歌部門の選者を務める、カリフォルニア短歌会会員、新移植林会員。

二〇二二年十月記

 

(注、カリフォルニア短歌会はロサンゼルス在住の松江久志主宰、新移植林はロサンゼル在住の中條貴美子主宰、どちらにも北米と日本の歌人が在籍)