「円き葉のサルトリイバラに包まれし餅の香りに母しのばるる」

松江久志の著書「花宇宙」副題「松江久志の植物短歌歳時記」より

 

サルトリイバラは秋に赤い実を着ける蔓(ツル)性の植物である。若葉は食用に、実は生食や果実酒になり、漢方薬としても珍重される。赤く熟した実や味わいの有る秋の葉、節ごとにジグザグに折れ曲がった細長い蔓は花材として好まれる。サルトリイバラの名前の由来は棘の有る茎を伸ばして蔓が枝から枝へと絡みつき藪のようになった処へ猿が追い込まれると動けなくなってしまう事から来ているとされる。サルトリイバラが潤沢にある地方では丸みの有る葉を使って端午の節句には柏餅の様に包む。「五郎四郎餅」とも「かからん団子」とも呼ばれる。

歌人には母を詠った歌が多く有り、これもその一つである。サルトリイバラの葉で包まれた餅を手にしているのは母上の逝去の後に帰郷された時である。その餅を見るだけで母を思うのだが、更に口に含んでみれば、そのほのかな香りが優しかった母の思い出を連れてきて胸を満たすのである。

 

サルトリイバラを私が初めて見たのはフェイスブックの写真である。適度な間隔に節の有る細いツルを広げてリースのように絡めた造形の写真は少しモンドリアン風の色彩を加えたモダンアートであった。葡萄の蔓にも見えたのだが、それがサルトリイバラであった。

 

サルトリイバラは松本清張の「火と汐」と言うタイトルの小説でアリバイ崩しに使われている。犯人のズボンの裾に付着していた三粒程の実を着けたサルトリイバラの小枝から完全犯罪と思われた事件を名刑事が解き明かして行く。

食べられたり、アートにされたり、アリバイ崩しに使われたり、サルトリイバラとは興味深い植物である。

 

「猿捕茨

サルトリイバラ

山帰来

Smilax china

Smilax Green brier

ユリ科の落葉灌木(蔓性)」

「花宇宙」より

 

歌人 石井志をん 千葉県出身、カリフォルニア、サンタクルーズ、フェルトン市在住、日刊サン短歌部門の選者を務める、カリフォルニア短歌会会員、新移植林会員。
二〇二二年七月記

(注、カリフォルニア短歌会はロサンゼルス在住の松江久志主宰、新移植林はロサンゼルス在住の中条貴美子主宰、どちらにも北米と日本の歌人が在籍)


 

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