石井志をんの短歌研究、家族の歌 / 松江久志「花宇宙」春の巻 (その七) 

松江久志(まつえひさし)「花宇宙」春の巻 (その七)

 

「小手毬を可憐なりとて老母は黄昏時の庭を動かず」

「小手毬のたわわに吹かれ乱れいる庭に老母は雑草(くさ)とりていき」

松江久志の著書「花宇宙」副題「松江久志の植物短歌歳時記」より

 

最初の歌では、母が小手毬の花の可憐さを愛でている。春も浅い日、黄昏時の庭には冷気が迫っている。「さあ、お母さん寒いからもう中へ入りましょう」と言っても、母は動こうとしない。ここで出てくる庭とはロサンゼルスに住む歌人の家の庭である。日本から遠くアメリカに住む息子の家を訪れた母の姿である。母上は異国の地に住む息子の家の庭に思いがけず大好きな小手毬を見つけて大層喜ばれたのであろう。

二作目の歌では、数日過ぎて小手毬は散り始めている。たわわに咲く白い小花は風に吹かれて雪のように舞う。その花の下で母は雑草を抜いている。土で汚れる事を心配して「そんなことなさらなくても」と、夫人は言う。だが、母は異国に根を下ろして立派に生きている息子の庭での作業が嬉しい。米粒程の白い花弁は母上の背中にも舞ったであろう。

山の中に住む筆者の家の庭にも小手毬が咲く。友人が手折って持たせてくれた枝を挿し木にした株は今庭木の一つとして馴染んでいる。玄関先に小手毬が咲くと「So beautiful」と訪れた人は言う。可憐な花であるが小手毬はしたたかに丈夫で、カリフォルニアの乾いた土にめげる事もない。小手毬の花は洋風、和風どちらにも似合うが、私は和風の庭に殊更似合うと思う。

 

「小手毬

コデマリ

テマリバナ

Spiraea cantoniensis

Spiraea lanceolata

バラ科の落葉小灌木

中国原産

白色の五弁花が数十個集まり、細長い枝に連なる、風情も有る 。

 

【花言葉】努力する」

「花宇宙」より

 

歌人 石井志をん 千葉県出身、カリフォルニア州、サンタクルーズ・カウンティー、フェルトン市在住、日刊サン短歌部門の選者を務める、カリフォルニア短歌会会員、新移植林会員。
二〇二一年一二月記

(注、カリフォルニア短歌会はロサンゼルス在住の松江久志主宰、新移植林はロサンゼルス在住の中条貴美子主宰、どちらにも北米と日本の歌人が在籍)