松江久志(まつえひさし)「花宇宙」春の巻 (その十五)
ストック
「ストックは妻のにおいと思いたる裡の慕情をただに過ぎ行く」
「ストックが紫あわく咲くゆえに寄りゆき妻は声をかけおり」
松江久志の著書「花宇宙」副題「松江久志の植物短歌歳時記」より
最初の歌は相聞歌の極みであると思う。歌人のどの時代の歌かは判断出来ないがストックのにおいをこれは妻のにおいだと言い切り、心の奥に疼くほどの激しい慕情を抱いて月日は過ぎて行く。妻なる人に書いたラブレターを短歌にしたものではないのでしょうか。
二首目の歌から読む者はその情景を想像しやすい。夫人は花を愛する人なのでしょう。淡い紫色の優しげなストックの花に近づいて「まーなんて良い香りでしょう、なんて綺麗なんでしょう」とでも言っている、それを見つめる夫が居る。
「ストック」
アラセイトウ
紫羅欄花
Matiolla incana
Stock
アブラナ科
原産、南欧
ボリュウームのある花穂、古い花でギリシャ、ローマ(古代の)では薬用とされた。花色は白、桃、赤、紫、淡黄など多彩。無分枝系と分枝系とあるが、切り花は無分枝系(一本立ち)である」
「花宇宙」より
歌人 石井志をん 千葉県出身、カリフォルニア、サンタクルーズ、フェルトン市在住、日刊サン短歌部門の選者を務める、カリフォルニア短歌会会員、新移植林会員。 二〇二二年九月記
(注、カリフォルニア短歌会はロサンゼルス在住の松江久志主宰、新移植林はロサンゼル在住の中條貴美子主宰、どちらにも北米と日本の歌人が在籍)