石井志をんの短歌研究、家族の歌 松江久志 「花宇宙」春の巻 (その二)

松江久志(まつえひさし)

「汝が肩にもたれて聞きしアネモネのローマ神話の中のジェラシー 」

松江久志の著書「花宇宙」 副題「松江久志の植物短歌歳時記」より

冒頭の歌は松江久志が夫人とヨーロッパ旅行をした時の情景であろう。深読みになるが、この歌は夫人の気持ちを詠んだものとしても鑑賞できる。「汝」とは松江久志の事で、肩にもたれてローマ神話を聞いたのは夫人ではないかとも考えられる。だが、「我が方に君がもたれて」と詠むと三一文字には収まり切れない。短詩では主語を省いても許される、時にはむしろそれが歓迎される、俳句や短歌を詠む時描写はしても説明は避けたいのである。

ローマ神話の中のアネモネ(風の花)には諸説有るが有名なのは美の女神アフロディーテに息子のキューピッドの射た矢が当たってしまい、アフロディーテは最初に目にした美少年アドニスに夢中なる。彼女の恋人、戦いの神アレスはアフロディーテが心変わりしたと思い嫉妬のあまりアドニスを殺してしまう。 アネモネはアドニスが流した血から咲いた花とも。アドニスの死を悲しんでアフロディーテが流した涙から咲いた花であるともされている。

私の好きなポップスの歌手高橋真梨子に「アフロディーテ」と言うタイトルの歌が有る。その歌詞は罪深く、妖しい。

「この燃えたぎる想い胸に宿るあなた

時が二人を切り裂いても愛の炎消せはしない

アフロディーテ身も心もすべてを捧げて

アフロディーテ神に背き生きてゆく,それが愛と言うならーーー」と有る。

アネモネは誤解と嫉妬を象徴する花なのである。

「アネモネはウマノアシガタ科の多年生草木

Wind Flower, Garden Anemone, Poppy Anemone

花言葉 はかない恋、真実、期待 」

「花宇宙」より

巻末の図鑑には赤白紫色の鮮やかな写真が載っている。

(敬称略)

 

歌人 石井志をん 千葉県出身、カリフォルニア州、サンタクルーズ・カウンティー、フェルトン市在住、日刊サン短歌部門の選者を務める、カリフォルニア短歌会会員、新移植林会員。

二〇二一年七月記

(注、カリフォルニア短歌会はロサンゼルス在住の松江久志主宰、新移植林はロサンゼルス在住の中条貴美子主宰、どちらにも北米と日本の歌人が在籍する)