松江久志(まつえひさし)「花宇宙」 春の巻(その八 )
「花も笑む事があるよと老母がゆびさす辛夷(コブシ)は白き折鶴」
松江久志の著書「花宇宙」副題「松江久志の植物短歌歳時記」より
歌人の母を詠んだ歌である。舞台は故郷島根県松江市であろうか、それとも現在住むロサンゼルスであろうか。母は辛夷の花を指さして花も微笑む事が有るのだと言う。確かに陽を浴びて乱舞するように咲き乱れる白い花の群は春の到来を喜んでいるようにも見える。山笑うと言う季語にも有るように花も微笑むのだ。それを聞いてる歌人にはその白い花が折鶴に見える。
何気ない日常を切り取ったスケッチの親子の姿に詩情が溢れている。
昔「辛夷の花の咲く頃」と言う映画を観た事がある。小柄で目のクリクリした中原ひとみが演じた主人公は都会の美容院で働く。可憐な桑野みゆき扮する女中(今では差別語だが)は過労がたたって倒れ故郷へ帰るが、死んでしまう。やりきれない思いに打ちひしがれる主人公の故郷には春になると辛夷の花が咲き乱れる。
辛夷は白モクレンに似ているが、白モクレンより花が小さい。辛夷は花のつぼみを生薬として、花弁は天婦羅などにして食することが出来ると言う。
「辛夷
コブシ
Magnolia Kobus
モクレン科の落葉花木
花弁は六枚
花の咲き方で季節を測ったりした
雪国の人には親しい花
ヤマアララギ コブシハジカミ
蕾が幼児の拳に似ているからの名前とか、実の形からの名前ともいう
【花言葉】友情 友愛」
「花宇宙」より
歌人 石井志をん 千葉県出身、カリフォルニア州、サンタクルーズ・カウンティー、フェルトン市在住、日刊サン短歌部門の選者を務める、カリフォルニア短歌会会員、新移植林会員。
二〇二一年一二月記
(注、カリフォルニア短歌会はロサンゼルス在住の松江久志主宰、新移植林はロサンゼルス在住の中条貴美子主宰、どちらにも北米と日本の歌人が在籍)