随筆日、2022年5月、ロサンゼルスにて、板橋恵理
ウエッブ掲載日:2022年9月8日

 

二、 三か月前用があり、 友人二人と数年ぶりにロサンジェルスダウンタウン方面まで出掛けた。 あらかじめ、 グーグルマップ (Google map) で調べておいた行き方を頼りに運転して行ったが、 ダウンタウンに入る前より、 既にフリーウェイの上から、 ホームレスのテントがあちこち視界に飛び込んできたのには驚いた。

フリーウェイを下りた途端、  道の両側がホームレスのテントで密集しているのが見える。 ゴミが散乱し、 バスの停留所のベンチでは、 寝っ転がって何か呻いているホームレスもいれば、 所持品で積み上がったショッピングカートを押している者もいる。 高齢者や中年に限らず、 十代後半か、 二十年代と見られる若者もいる。 我々は自分達の言動を恥じながらも、 赤信号で止まれば、 「車のドアがちゃんとロックしてあるか、 確かめて」 やら、 「きょろきょろせずに、 廻りの人達とアイコンタクトをとらないように」 など言い合い、 前を凝視しながら、 早く青信号に変わらないかドキドキしながら待っていた。 その日も、 からっと晴れた日だったが、 カリフォリニアの青空の下に存在するものは、 暗い現実だった。

ホームレスはダウンタウンのみに限らず、 昔は目にしなかった郊外でもよく見られるようになった。  最寄りの図書館の外で寝泊まりしているホームレスの中年男性は、 所持品をビニール袋に詰め、  それを自転車のハンドルにぶら下げて移動しているようだ。  時々見かける若い男性は、 バックパックを背負い、 あちこち歩いている。  公園近くで見る年配の女性は、 所持品を積みに積んだスーパーマーケットのカートを押している。

2020年から2021年にかけ、 カリフォルニアのホームレス人口が上昇していると言われてはいるが、 実際の人口数を確実に把握するのはとても困難のようである。  と言うのも例えばホームレスの人が雇用され働き始めたり、  家族や知人宅に引き取られ暮らし始めたり、入院したり、 亡くなったり、  他州へ移動したり、  逆に新地に希望を託して他州より移動してくる人もいるからだ。

税金がすこぶる高いカリフォルニアでは、 家賃や物件も高く、コロナ禍で失業したり、住まいを失う人も多かった。  失業者に限らず、  麻薬やアルコールやギャンブル中毒者、  精神病者、 前歴のある者、  心身共にトラウマを患った退役軍人などが多くのホームレス人口を占めている。  退役軍人以外でも、 何かしらの心身トラウマやら虐待を経験し、 それが失業、 麻薬、 アルコール、 ギャンブルへと繋がってしまう場合も多い。

ホームレスが近所に現れると、 市民達は嫌がり、 ホームレスが他の場所や市へ移動すれば、 皆ホッと胸を撫で下ろす。 が、 これは結局他の市の問題となり、 問題解消にならない。 州や市が非営利団体や企業、又は富豪家などと共同で、使われていないビルやホテル、建物をホームレスの人の住み家として改造すればとの声も上がるが、 あくまでもホームレスが身近で見えなくなるだけで、 ホームレスの防止にはならない。 精神異常者を含むホームレスの中には、長期のカウンセリングや入院、治療も必要だろうが、 カリフォルニアには州立の精神病院も少ない。

2022年の5月22日付けでウエッブサイト「ロサンゼルスのメール交換」に掲載された随筆、「増加する犯罪への対応」にも書いたが、ホームレスや、 精神異常のホームレスに依る犯罪増加が目立って来ている一つの原因は、 犯罪に対する処罰が軽くなっており、犯罪者は保釈金無し、 或いは短期間の監獄ですぐ釈放されてしまうからだ。 そしてそれを悪用しながら、犯罪者は何度も何度も罪を犯し、それが結局殺人の重刑に繋がってしまう実例も多くある。

実際今まで発生した、 殺人や殺人未遂の犯人には、長い前科がある。  例え犯人を捕らえても、すぐ釈放され、事件が再発、 かつ悪化することに間違いない。そしてこれらの犯罪を取り締まる州のDistrict Attorney (DA-地方検事)の検察見解と能力が、  厳しく批判され、  カリフォルニアでは、  DAであるジョージ. ガスコンのリコール選挙運動が2021年と今年二回行われ、 署名も必要以上集まったのは良いが、 中には投票権を持っていない人からの署名があったり、 重複したものもあり、 あいにく今年の11月選挙まで持っていけなくなった。

ただ単にホームレス問題と言えない。  その問題解消には、 色々な面から対応していかなければならず、 あいにく時間がかかりそうだ。 それまでは、  不安の生活が当分続くのか。

随筆日: 2022年5月
改訂日: 2022年5月、 2022年8月
投稿日: 2022年8月19日
ウエッブサイトへの掲載日: 2022年9月8日

 

板橋恵理=関東地域で生まれる。家族の転勤と学校のため、幼年期から現在にいたるまで、日本ーヨーロッパー日本ーアメリカで生活する。現在は、アメリカ人の夫と老猫とロサンゼルスに在住している。趣味のひとつである太鼓にはまり、5年がたつ。老猫の名前もタイコ。

板橋恵理のカリフォルニア人間観察(エッセイ一覧)


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