随筆日、2022年2月、ロサンゼルスにて、板橋恵理
ウエッブ掲載日:2022年7月22日
今アメリカでは、 「she」、 「he」、 「they」 でなく、 「Neopronoun」 と呼ばれる新しい英語の代名詞 を使う動きがあり、 主にトランスジェンダー (Transgender) や ノンバイナリー (Non-binary) によって使われているそうだ。 この新しい代名詞に伴い、 更に 「her」、「his」、 [their/theirs] の所有代名詞、 「her」、 「him」、 「them」 の直接目的語、 そして間接目的語も変わってくることになる。
両方とも聞き慣れていない用語だが、 トランスジェンダーとは、 厳密に言えば複数の性同一性の総称で、出生時に割り当てられた男女性別と対極にある性同一性(トランス女性とトランス男性)の他に、男女の枠にはまらない性同一性も含み、 「性別越境者」と日本語では呼称されることがあるそうだ。 トランスジェンダーであることは、その人の性的指向 (Sexuality)とは独立した概念であり、 異性愛、同性愛、バイセクシュアルなどを含む多様な性的指向を持つトランスジェンダーもいるそうである。
ノンバイナリーとは、 トランスジェンダーの中で、男女といった枠組みをあてはめようとせず、 性自認が男女のいずれでもない性を希望する者を指すそうだ。 実際非西洋文化圏でこれに近い人々が第三の性として認知されていた例があり、 例えばナバホ族のナドゥル、ドミニカ共和国のゲイヴドーシェ、 フィリピン・セブ州のバヨット、 インドネシアのワリア、タヒチのマフ、フィリピンのバクラやバベイラン、タイのカトゥーイ、 ミャンマーのアコルト、トルコのコチェック、モロッコのハッサスなどが挙げられる。
これらの「性別越境者」 や 「第三の性」 を自認する者に当てはまる新しい英語の代名詞、 所有代名詞、 直接代名詞、 そして間接代名詞を見ると、 「she」、 「her 」、 「he」、 「him 」、 「they」、 「them 」 の代わりに、 「xe/xem/xyr 」、 「ze/hir/hirs 」、 「ey/em/eir」などがあり、 新代名詞の一覧表を参照しても、 何が何だか分からず混乱してしまう。
これらの新代名詞がまだ策定されていない頃は、 [they/their/theirs] が使われていたようだが、 複数形を単数形として使うのは、 英語の文法に違反するし、 苦労しながら言葉を学んだ私にとって、 どうも抵抗がある。 かと言って新代名詞は、 混乱を招くだけでなく、 外見を見ただけでは、 「性別越境者」 か 或いは 「第三の性」 かどうか、 判断しかねない相手もいるわけだから、 その本人のことを誰かに話したり、 書いたりする場合、 どの新しい代名詞が該当するのか分からない。 あくまでもこちらの判断で、 「he/him/his」 か 「she/her/hers」 の、 いわゆる男か女かのどちらかを使うことになるだろうし、 その方が正直言って簡単だ。
今や新代名詞使用の動きは、 フランスでも盛んになってきているそうである。 アメリカでも赤ちゃんの出生時に、 出生証明書上、 性別を 「不詳 」にする性別越境者の親もいると聞いた。 誰が 性別越境者だろうが 第三の性だろうが、 人間として差別はしてはならないが、 新代名詞の使用が本人を尊重する目的なら、 逆にこれらを無くし、 日本の 「さん 付け」 に該当するような呼び名を考えるのはどうだろう。 日本語に、 「彼」 や 「彼女」 等の代名詞は存在しても、 普段の会話や文章には使われないし、 まして主語は通常省かれている。 性別無関係に、 この方がよっぽど個人を尊重する形をとっていると思うのだが。 それともこれは、 言葉で苦労した者の精一杯の嘆願なのかもしれない。
随筆日: 2022年2月
改訂日: 2022年2月、 5月、 7月
投稿日: 2022年7月14日
ウエッブ掲載日:2022年7月22日
板橋恵理=関東地域で生まれる。家族の転勤と学校のため、幼年期から現在にいたるまで、日本ーヨーロッパー日本ーアメリカで生活する。現在は、アメリカ人の夫と老猫とロサンゼルスに在住している。趣味のひとつである太鼓にはまり、5年がたつ。老猫の名前もタイコ。
ハリウッドのジャパン・ハウスでは7月28日から「ライフサイクル:四代目田辺竹雲斎のバンブー探検」の展示が始まります。詳しくは Weekly Cultural News (英文)に掲載されています。Weekly Cultural News は、4カ月36ドルでPDF版を購読することができます。申込は
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