随筆日、2022年9月、ロサンゼルスにて、板橋恵理
ウエッブ掲載日:2022年10月7日
9月の初めに、 イギリスの君主、 エリザベス女王が、 96歳で亡くなった。
例えイギリスに住んでいなくとも、 70年もの在位に就いていたのだから、女王の存在を知らないという者はいないだろう。 皆何かしらニュースで名前を耳にしたり、 顔を見たりしたことがある筈だ。
もう何十年も前の昔話になるが、 幼児の頃家族でヨーロッパに住んでいたとき、 イギリスを訪れたことがあり、 バッキンガム宮殿衛兵交代のパレードをちらっと見たことがある。 更に、長い黒い帽子を目が見え隠れするくらいまで深く被り、直立不動で身動きもせずに警護を行っている衛兵のすぐ横に立ち、親に写真を撮ってもらったことも覚えている。いたずらだった私は、どうにかして衛兵の反応を見たいと思い、ちらちらと顔を見上げ、笑わすことが出来ないものか頭を巡らせていたものだ。
女王という言葉と存在は、童話でしか馴染みがなく、常に冠を被り、長いドレスを着て、苦労もせず、悩みもなく、それこそずっと幸せに暮らしているのだろうと想像していたので、子供の自分にとっては、手の届かぬ、近寄り難い、しかし一種の憧れの的でもあった。
わずか25歳の若さで、女王として王位を引き継がねばならなくなり、その後様々な政治的、社会的問題、そして今現在も続いている王室問題やスキャンダルに直面しながらも在位を務めてきたエリザベス女王は、時には冷淡だと見られ、又君主反対者から批判を受け、王室への支持が急落したりしながらも、長年もの在位に就いていたことは、尊敬を抱かずにはいられない。
国民の信頼を取り戻そうと、例えば王室のSNSアカウントを活用し、国民とのコミュニケーションを積極的に図る姿勢を打ち出し、「開かれた王室」を実践し、コロナ感染が拡大し、社会に不安が広がった際には、テレビ演説で連帯を呼びかけた。
今回のエリザベス女王の葬祭も世界中テレビ放映され、視聴者は画面に釘付けになった。勿論貴族でもなく、皇室とは全く面識も何もないのに、 私もその一人だった。訃報を受けて、バッキンガム宮殿の前には、雨が降りしきる中でも、途切れることなく、多くの人が訪れ、最後のお別れをと、国内や国外から人が集まり、中には数日前から周辺でキャンプをしている人や、12時間も長蛇の列に並んでいた人もいたという。テレビに映るその様子を見ると、年配だけでなく、中年、若者、子供達も多くもいて、戦後の70年間をすべて自身で体現していたエリザベス女王だからこそ、世界で最もよく知られた人だったのだと分かる気がする。大勢の群衆の中でも、押合いへし合いもなく、自分の番を辛抱強く待ちながら、少しずつ前に進む人達の列に、静寂ささえ漂っており、その中には団結さも感じる。
特に過去2年ちょっとの間に、社会的、経済的、 そして政治的に世の中が不安定になり、無責任な言動や行動をとる者、又犯罪を犯す者も増え、落ち着かない時代となった。そんな中だからこそ、エリザベス女王が、君主国反対の批判の声を浴びながらも、過去70年もの在位に就いたことに、忍苦、責任感、整然さ、気品さ、高潔さを見、それを新鮮に感じ、かつ今後の世の中に対して、わずかな望みも抱いてしまうのかもしれない。
随筆日及び改訂日:2022年9月
投稿日:10/1/2022
ウエッブ掲載日:10/07/2022
板橋恵理=関東地域で生まれる。家族の転勤と学校のため、幼年期から現在にいたるまで、日本ーヨーロッパー日本ーアメリカで生活する。現在は、アメリカ人の夫と老猫とロサンゼルスに在住している。趣味のひとつである太鼓にはまり、5年がたつ。老猫の名前もタイコ。
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