ロサンゼルス:嶋幸佑のアメリカ俳句鑑賞「秋晴の丘の横文字ローズヒル」

嶋幸佑が選んだ今日のアメリカ俳句(2021年9月1日)

「秋晴の丘の横文字ローズヒル」森武子(モンテベロ)

秋は越し方を振り返る心持にさせる季節。歩んできた道で起こった出来事に何らかの意味を探ったり、そこに神の意思を読み取ろうとしたり。晴れ渡った秋の空に永遠を見た詩人もいました。しかし、その一方で、ふと寂しさが心をよぎるのも、やはり秋です。

ローズヒル、正しくはローズヒルズですが、ご存知のように、ロサンゼルス近郊ウイティア市の丘陵に広がる墓地で、多くの日本人や日系人も埋葬されています。掲句。秋晴の空の下で行われている埋葬式に参列しているのでしょうか。「ローズヒルズ」と書かれたサインが見えます。その横文字に、何か感じ入るものがあり、それが一句をなしました。それはいったい何だったのしょう。

手がかりを探るように「北米俳句集」に収録されている作者の自選20句を見ていきました。その中の一句から、作者は少なくとも在米60年になることが分かりました。こんな句も目につきました。「カブリヨの歴史を秘めて春の海」。サンディエゴ近郊のこの土地は、1542年にスペイン人のファン・ロドリゲス・カブリヨが上陸したところです。西海岸では初めてのことでした。カブリヨを訪れた時、作者は、その歴史に思いを馳せながら、一スペイン人と日本人である自分とを切り結ぶものを感じていたのかもしれません。長年この国に住んでいることへのある種のこだわりと了解、といったものです。

そして今、いつか自分もそこに眠ることになるかもしれないローズヒルズの墓地で、死者へ哀悼を捧げながら、眺めている横文字のサインに、再びそのこだわりと了解を感じているのではないでしょうか。この異国の地。墓地の横文字のサインは、自分がこの異国の土となるということをもう一度、思い起こさせました。祖国の先祖代々の墓で眠ることはないでしょう。そこには、一抹の寂しさもあります。しかし、秋晴の空の下、そんなこだわりが小さいものに思えてきました。「そう、これでいいんだ」。「横文字」の一語に秘められた寂しさと了解。季語の「秋晴」が、了解の深さを示しているようです。

【季語】秋晴=秋、「北米俳句集」(1974年、橘吟社刊)

嶋幸佑(しま・こうすけ)ロサンゼルス在住42年。伝統俳句結社の大手「田鶴」(宝塚市、水田むつみ主宰)米国支部の会員。

今から100年ほど前、アメリカに俳句を根付かせようと、農業従事者や歯科医など各種の職業に就いていた日本人の俳人らが、日本流の風雅を詠うのではではなく、アメリカの風俗・風土の中に、自分たちの俳句の確立を目指した。

このコーナー「嶋幸佑のアメリカ俳句鑑賞」は、そうした先人の姿勢を、現在に引き継ぐ試み。今でも多種多様な職業の人たちがアメリカで俳句を詠んでいるが、それぞれの俳句の、いわゆる「アメリカ俳句」としての立ち位置にも迫る。

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