ロサンゼルス:嶋幸佑のアメリカ俳句鑑賞「姉妹国を異にし菊に老ゆ」

嶋幸佑が選んだ今日のアメリカ俳句(2020年10月22日)

「姉妹国を異にし菊に老ゆ」岡田清子(ボールデンパーク)

二つの国に分かれて住むことになった姉妹の定めを、菊に託した一句。ここには、その悲しさも、辛さも、いっさい言葉にしていないが、そうした気持ちを当然いだいていただろうことは、想像に難くない。もし国を異にして住むことが、二つの国の関係のありようによって生じたものであったならば、そうした歴史に対して恨む気持ちすらあったかもしれない。

しかし、菊という、日本の代表的な秋の花である。姉も妹も、ともにその花を愛でながら老いた身となった今、そこには違う気持ちも見えてきそうである。それは、悲しみの感情とともに、それを越えて、そして海を越えて、それぞれが日本人として生きてきて、ここまで来ることができたという実感のようなものではないだろうか。そして、その実感を姉妹で共有していることへの一つの満足感もうかがえないだろうか。

作者についての情報はほとんど持っていないが、現在もロサンゼルスの「橘吟社」のメンバーとして俳句を作り続けておられる岡田清子さんであろうか。とすれば、もう俳人としての歩みはけっこう長いと思う。

この作者には次の句もある。

「日本酒をそゝぎ移民の墓洗ふ」

そして、これは忘れられない句となるだろうと思う次の作も。

「爽やかや胸に手をおき国歌きく」

胸に手を置いて聞くのはアメリカ国歌だ。そこに、国を愛する気持ちがある。「ナショナリズム(nationalism)」ではなく「ペイトリオティズム(patriotism)」である。作者が姉妹で分かち合った日本人として生きてきたという実感の同一線上に、アメリカを愛する作者の気持ちがある。

【季語】菊=秋、「北米俳句集」(1974年刊行)より

嶋幸佑(しま・こうすけ)ロサンゼルス在住40年。伝統俳句結社の大手「田鶴」(宝塚市、水田むつみ主宰)米国支部の会員。ロサンゼルスの新聞「日刊サン」のポエムタウン俳句選者。

今から100年ほど前、アメリカに俳句を根付かせようと、農業従事者や歯科医など各種の職業に就いていた日本人の俳人らが、日本流の風雅を詠うのではではなく、アメリカの風俗・風土の中に、自分たちの俳句の確立を目指していた。

このコーナー「嶋幸佑のアメリカ俳句鑑賞」は、そうした先人の姿勢を、現在に引き継ぐ試み。今でも多種多様な職業の人たちがアメリカで俳句を詠んでいるが、それぞれの俳句の、いわゆる「アメリカ俳句」としての立ち位置にも迫る。

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