ロサンゼルス:嶋幸佑のアメリカ俳句鑑賞「アメリカの邦字紙七つ読始」

嶋幸佑が選んだ今日のアメリカ俳句(2021年2月5日)

アメリカの邦字紙七つ読始」岩田笙州(北米)

掲句、7つもの邦字紙が発行されていたのがいつごろか分からないが、それにしても、その7つもの邦字紙を読むという姿勢に圧倒される。ましてや「読始」だから、いつもより厚手の新年号なのだ。

掲句が詠まれたのは収録されている句集の発行以前だから、作者が目の前に置いているのはプリントの新聞に間違いない。「アメリカの」というのは、アメリカ全土で発行されている邦字紙を言っているのではなく、日本ではない、このアメリカで日本語の新聞が発行されていることへの感慨を述べたものと解釈したい。ある特定の都市で7つの邦字紙が発行されていて、その新年号が配達されてきて、それを並べてこれから読もうという図である。

その都市は、ロサンゼルス以外に考えられない。カリフォルニア州ではサンフランシスコのほうが邦字紙の創刊は早かったが、ロサンゼルスの経済発展から、邦字新聞ビジネスはロサンゼルスのほうが活発になっていった。中には週刊紙や月刊紙も含まれていたし、浮き沈みも激しかったようだが、戦前に10紙以上発行されていたとの記録もある。ちなみに、創生期にロサンゼルスで創刊された邦字紙で、現在も発行を続けているのは、1903年創刊の羅府新報一紙のみである。

複数の新聞に目を通すというのは、それほど驚くことではないし、今ならオンラインで日米の主要新聞を読む人も多い。それでも、7つの邦字紙を読むというところに、情報収集以上のものを感じる。日系社会の繁栄の証拠でもあるような邦字紙7つをひろげ、満足感に浸りながら、越し方を振り返っているのかもしれない。日系社会へ向けた作者の強い思いがそこにある。考えたら、邦字紙は、そもそも日系社会を大切に思い、その繁栄を願って発行されたものだった。

【季語】読始=新年、「北米俳句集」(橘吟社、1974年刊行)より

嶋幸佑(しま・こうすけ)ロサンゼルス在住40年。伝統俳句結社の大手「田鶴」(宝塚市、水田むつみ主宰)米国支部の会員。

今から100年ほど前、アメリカに俳句を根付かせようと、農業従事者や歯科医など各種の職業に就いていた日本人の俳人らが、日本流の風雅を詠うのではではなく、アメリカの風俗・風土の中に、自分たちの俳句の確立を目指していた。

このコーナー「嶋幸佑のアメリカ俳句鑑賞」は、そうした先人の姿勢を、現在に引き継ぐ試み。今でも多種多様な職業の人たちがアメリカで俳句を詠んでいるが、それぞれの俳句の、いわゆる「アメリカ俳句」としての立ち位置にも迫る。

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