2021年1月26日、ロサンゼルスにて、板橋恵理

コロナでの在宅環境下、  色々と今までやったことのないことやら、  やってみたかったことに挑戦する人達が増えた。   私のアメリカ人の友人Wさんもそうで、  時間を費やしながら家系と祖先の調査をし、古い書類や写真も収録しながら一冊の素敵な本にした。  最大な理由は、  東部の施設に住む父親の百歳の誕生日を記念し祝うことだったそうだ。  頭はしっかりしているものの、  体は衰弱してきており、誕生日まで間に合うかどうか心配しながらも、  作成した本を抱え東部へと飛んだ。

コロナ事態が落ち着くまでまだ時間がかかるだろうと予想され、  いつ父親と会えるか分からない自斎生活の中で、  Wさんは自分や家族の経歴を学び理解したくなったそうだ。    自分の原点、   ルーツに戻ることで今までの人生や自身の中で葛藤してきたこと、  している事柄を整理していけるのではと思ったのがもう一つの理由だったそうだ。

これは例えば一度読んだ本を読み返すのと似ているのではないか?  私は読書と図書館に行くのが好きだが、  このコロナ環境下入館出来ず、  従って本をあれこれ物色出来ない。   ネットで本を借り、  図書館の入り口で手渡してもらう仕組みになり、  私は以前読んだ本を借りてきては読み返している。  コロナ発生当時は図書館自体閉館だったので、  家の本棚に詰まった本を引っ張り出してきて片っ端から読み直していったが、  本を読み返すのは意外にも面白いと発見した。  と言うのも最初に読んだ時には不明だった点がよく理解出来たり、  新しいことを発見したり逆に違った印象を受け考えさせられることも多いにあるからだ。

亡き父は普段はもの静かだったが、  物事を教えるのが非常に上手だった。  相手関係なしに、  よく響く声でゆっくりと丁寧に説明するのだ。  変に難しい言葉を使わずに、  誰でも分かり易いように教えるのが旨かった。  子供の頃、  算数の計算やら問題につまずき分からなくなることがあると、  必ず  「最初に戻って初めからもう一度やってごらん」 と言っていた。  こちらは早く宿題を終わらせて遊びたいので、   「もう二回やったけど分からない!」 と苛立ち、  心の中では父に宿題をやってもらいたいと甘い考えでいた。   父はそれをちゃんと見透かし、  「正しいと思っていてももう一度初めからやってごらん」 と決して譲らなかった。  「ハア- もう!」 とわざとらしく大きな溜息をつきやり始めると、  なんとちゃんと解けたのだ。

くだんのWさんは若い頃父親に反抗することが多く、  衝突が絶えなかったそうだ。  しかし家系と祖先の経歴調査をしていく過程の中で、  当時の世の中の出来事も比例し父親のことを理解し、  かつ感謝することが出来たと言っていた。  そしてそれは自分自身に対しての理解を深めることにも繋がったそうだ。

このコロナ事態で、  人々の生活に変化やら支障が加わり、  今まで見なかったことや見えなかったことが表面化されるようになった。  或いは見えていても見ようとしなかったことも多いにあるだろう。  コロナは自分の力では到底解決出来ないが、  自分自身が心の中に抱えている葛藤やら混乱は、  コロナ以前より潜在していただろう。  心の中の原点に戻ってみることで少しは安らぎも生まれるのではないだろうか。

板橋恵理=関東地域で生まれる。家族の転勤と学校のため、幼年期から現在にいたるまで、日本ーヨーロッパー日本ーアメリカで生活する。現在は、アメリカ人の夫と老猫とロサンゼルスに在住している。趣味のひとつである太鼓にはまり、5年がたつ。老猫の名前もタイコ。

板橋恵理のカリフォルニア人間観察(エッセイ一覧)

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