ロサンゼルス:嶋幸佑のアメリカ俳句鑑賞「靴音の跳ねかへり来る初夏の朝」

嶋幸佑が選んだ今日のアメリカ俳句(2020年8月8日)

「靴音の跳ねかへり来る初夏の朝」茂木きよ(ガーデングローブ)

掲句は、約240人の作品を収めた「北米俳句集」の、茂木きよさんのページにある自選20句のうちの一句。その他の句も読んで、作者はどんな人なのかちょっと気になったので探ってみたが、どうにも情報が見当たらない。実は10年ほど前、私がお世話になっていた俳句の会に同姓同名の人がいたので、ひょっとしたら「北米俳句集」の茂木さんではないかと思って聞いたことがある。でも、あっさり「ノー」。その茂木さんは2017年、92歳で他界したのだが、俳句の趣から、私にはどうしても同一人物という気がしてならないのである。

掲句。初夏の朝、散歩をしていたのだろう。その脇を、跳ねるように若者が通り過ぎた。靴の音が跳ね返ってくると詠んだことで、若者の軽快さと、初夏の爽やかさが伝わる。この他、「北米俳句集」には「ま青なる空より小鳥こぼれ来る」「春立つや日々に艶ます木々の肌」など、鋭い観察による素材を親しみやすく詠んだ句が目につく。

私の句友だった茂木さんの句には「いろいろな色を選んで散る落葉」「夏の雲天が狭いとふくれてる」などがあるが、やはり、独自な観察が特徴と言える句が目につく。江戸っ子だった茂木さん。句もきっぷがいい。おそらく、むかし俳句をやっていたことを打ち明けることに、どこか照れがあったのではないか。2015年には「ヤングマン来ると起され初日の出」が芭蕉祭山中温泉全国俳句大会で特選になった。辞世の句と言える「小鳥さん私に何を告げたいの」には、アメリカでの長い暮らしを振り返っていた時、何度も庭に戻ってくる小鳥に「もう何を言ってもだめよ」と戯れている茂木さんが見えるような気がする。

「北米俳句集」のほうの茂木さんの句をもうひとつ。「焔吐く町の屋根々々雲の峰」

【季語】初夏=夏、「北米俳句集」(1974年、橘吟社刊)より。参考:「敬老あすなろ句会」創立10周年、および創立15周年記念誌

嶋幸佑(しま・こうすけ)ロサンゼルス在住40年。伝統俳句結社の大手「田鶴」(宝塚市、水田むつみ主宰)米国支部の会員。ロサンゼルスの新聞「日刊サン」のポエムタウン俳句選者。

今から100年ほど前、アメリカに俳句を根付かせようと、農業従事者や歯科医など各種の職業に就いていた日本人の俳人らが、日本流の風雅を詠うのではではなく、アメリカの風俗・風土の中に、自分たちの俳句の確立を目指していた。

このコーナー「嶋幸佑のアメリカ俳句鑑賞」は、そうした先人の姿勢を、現在に引き継ぐ試み。今でも多種多様な職業の人たちがアメリカで俳句を詠んでいるが、それぞれの俳句の、いわゆる「アメリカ俳句」としての立ち位置も読み解く。

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