ロサンゼルス:嶋幸佑のアメリカ俳句鑑賞「靴音の夜番にめざむ風邪の床」

嶋幸佑が選んだ今日のアメリカ俳句(2020年6月24日)

「靴音の夜番にめざむ風邪の床」犬塚たかし(モンタナ州ミズーラ収容所)

太平洋戦争時の日系人強制収容で、戦時転住局が管理していた10カ所の収容所の他に、司法省の管理下に置かれた収容所が4カ所にあったが、今日の句はそのうちの一つ、モンタナ州ミズーラの収容所での作。そこで開かれた計9回の句会のうち、第3回の句会で最高点を得た。冬の句である。

ミズーラ収容所に送られたのは、大半が開戦の日に検挙された日系社会のリーダーで、それだけに、取り調べをはじめ、収容所内での生活は厳しいものがあったと思われる。羅府新報の当時の社長、駒井豊策もここに送られた。

しかし、当時の日系新聞、サンフランシスコにあった「日米」は、休刊になるまで何度か、このミズーラ収容所に「入所中の日本人某氏」から送られた便りを掲載しており、それは、そうした想像とは反対の様子を伝えるものだった。「全く米国当局の至れり尽くせりの待遇は囚われ者に対する態度ではなく、一同皆元気でゐる」。十分な防寒設備が整い、食事は「極めて上等」で、運動や娯楽施設があり、自治権が認められ、各人に適した仕事も与えられ云々。もち論、検閲を受けていたので、当局を批判するような情報は伝えることはできなかったとしても、これでは収容礼賛である。

ただ、掲句のような俳句だったら、検閲の目をくぐることができたのではないか。そして、収容の「真実」を伝えることができたのではないか。

靴音は当番の守衛が夜、見回っている靴音だ。風邪を引いて寝ていたのに、靴音で目が覚めた。その音が胸に突き刺さってくる。最高点だったということは、句会参加者の多くが共感をいだいた証拠である。他の句会には「つらゝ落つ音におびゆるキャンプの夜」の句も寄せられた。

十七文字の伝える力を、文字を超えて伝える力を、あらためて知らされる思いである。

【季語】風邪=冬、俳誌「たちばな」1948年1月15日号より。「日系アメリカ人強制収容とジャーナリズム」(水野剛也著、2005年、春風社刊)参考

嶋幸佑(しま・こうすけ)ロサンゼルス在住40年。伝統俳句結社の大手「田鶴」(宝塚市、水田むつみ主宰)米国支部の会員。ロサンゼルスの新聞「日刊サン」のポエムタウン俳句選者。

今から100年ほど前、アメリカに俳句を根付かせようと、農業従事者や歯科医など各種の職業に就いていた日本人の俳人らが、日本流の風雅を詠うのではではなく、アメリカの風俗・風土の中に、自分たちの俳句の確立を目指していた。

このコーナー「嶋幸佑のアメリカ俳句鑑賞」は、そうした先人の姿勢を、現在に引き継ぐ試み。今でも多種多様な職業の人たちがアメリカで俳句を詠んでいるが、それぞれの俳句の、いわゆる「アメリカ俳句」としての立ち位置も読み解く。

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