ロサンゼルス:嶋幸佑のアメリカ俳句鑑賞「純白の毛布に包み初ひまご」

嶋幸佑が選んだ今日のアメリカ俳句(2019年11月25日)

「純白の毛布に包み初ひまご」白水縫(ラミラダ)

「北米俳句集」が刊行されのが1974年だから、当然この句はそれ以前に詠まれたものだし、ひまごだから、日系四世となるが、そのころまでに、家族が四世代になったということは、おそらく、日本人移民のごく初期にアメリカに来た人だろう。来た当時はまだ日本人もいまほど多くはなく、いろいろと苦労したことは間違いない。句集に収められている自選20句の中には「花一杯の初荷」とか「菊手入」「畑見廻る」という句があるから、ロサンゼルス郡南のオレンジ郡ラミラダで、生花の栽培を業としていたものと思われる。また、他の句からは、夫と子に先立たれたこともうかがえる。孫には兵士もいたようだ。そして、初のひまご。孫やひ孫の句は感情に流されてしまって、なかなかいい句を作るのが難しいと言われているが、掲句は、感情を描写する形容詞を一切使わず、その喜びを「純白」の一語に託した。包んだものは、ひ孫ができて、これからも自分の家系が末長く続くことへの満足感でもあるだろう。「純白」はまた、ひ孫がアメリカの地で築いていく暮らしは、もう完全に作者の手の届かない、まっ白な画布のようなものであるという、一つの悟りのようなものを象徴してもいそうだ。いま、このひ孫の方は、どこでなにをされているのだろうか。

【季語】毛布=冬、「北米俳句集」(1974年刊)より

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嶋幸佑(しま・こうすけ)ロサンゼルス在住40年。伝統俳句結社の大手「田鶴」(宝塚市、水田むつみ主宰)米国支部の会員。ロサンゼルスの新聞「日刊サン」のポエムタウン俳句選者。

今から100年ほど前、アメリカに俳句を根付かせようと、農業関係者や歯科医など各種の職業に就いていた日本人、主にロサンゼルス地区居住の俳人らが、日本流の風雅を詠うのではではなく、アメリカの風俗・風土の中に、自分たちの俳句の確立を目指していた。

このコーナー「嶋幸佑のアメリカ俳句鑑賞」は、そうした先人の姿勢を、現在に引き継ぐ試み。今でも多種多様な職業の人たちがアメリカで俳句を詠んでいるが、それぞれの俳句の、いわゆる「アメリカ俳句」としての立ち位置も読み解く。

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