随筆日: 2021年11月5日、ロサンゼルスにて、板橋恵理
(ウエッブ掲載 2022年2月19日)
2021年、 カルチュラルニュースに投稿した随筆で、 手先が不器用で面倒臭がり屋の自分が、 ミシンを購入し、 ユーチューブで簡単な縫い方を学び、 下手ながらも初めてマスクを縫い、 あちこちに住んでいる友人、 知人にあげた (押し付けた) ということを書いた。
布売り場の前に立ち、 デザインと色彩豊かな布を手にとり、 「Xさんにはこの色、 Yさんにはこの柄」と決めていくのは 何だか嬉しかったし、 試行錯誤しながらでも、 布が自分の手で完成品になっていく過程を見るのが楽しく、 一度芽を出した植物が日に日に伸び育っていくのを見る感動さに似ていた。 まだワクチンが出回っていない頃、 デルタ変異種などの感染が広まり、 不安も募っていく中で、 更に厚みのある生地を選びマスクを数枚縫った。 別にマスクが直接コロナから守ってくれるわけではないのに、 厚みや数が増えれば何だか安心した。
それから一年以上過ぎ、 感染率が非常に高いコロナの新変異株オミクロンが猛威を振るわせている今現在、 布製のマスクの効果はもはや低いので、 着用しない方が良いと言われている。 N95やKN95と呼ばれる防護マスク (respirator: レスピレーターマスクとも呼ばれる) が、 最も効果が高く、 この種のマスクは空気中の粒子の95%を捕集する使い捨ての呼吸用保護具だそうだ。 立体的で、 鼻にもフィットするクリップ付きなので、 ずり落ちてくることもない。 しかしこれは入手しにくく、 最寄りのドラッグストアーヘ足を運んでも、 品切れである。 値段も安くはないし、 布製マスクと違い、 使い捨てで洗濯出来ない。
この種のマスクが手元になければ、 病院やクリニックで使われ、 ドラッグストアーでも売られている、 鼻の部分に針金が入っている衛生マスクでも取りあえず充分だそうだ。 水滴をマスクの上にたらし、 それが残るものが良品で、 水滴がそのままマスクに沁み込んでしまうのは、 避けた方がよいと聞く。 去年より、 この種のマスクと布製マスクを二重にして着用する人もよく見かけるようになった。 当時は、 ただでさえ息苦しいマスクを、 更に二重にするのは避けていたが、 今年に入り私も二重マスクを着用している。 先日は、 三重マスクをしている人を見た。
二重マスクをすると、 マスクの上の縁が目下ぎりぎりまで持ち上げられ、 時には目の中に入ってきそうになる。 更に二重マスクだと、 下を向いたときに自分の足が見えない。 その点布製マスクだと、 顔にぴったりとフィットし、 浮き上がることもない。 肌触りも布製の方が感触が良い。 そしてこれはどうでもいいことかもしれないが、 色々な柄や色彩豊かな布製マスクを、その日の着るものや、 日程、 気分などに依って選ぶことが出来るという楽しみもある。 今の世の中だからこそ、 こういう些細なことで気分転換にもなるだろう。 女性の場合、 二重マスクは顔の殆どの面積をカバーするので、 更に日焼け止めになる利点があると言っている友人もいる。 ニュースを見れば、 防犯カメラに写った指名手配の容疑者も二重マスクをしていて、 顔立ちが見分けにくいが、 この場合マスクは顔を隠す為にしているのではないかとさえ思ってしまう。
理論的に言えば、 ワクチン接種済みだったら、 マスク着用は余程のことがない限り必要なくなるし、 そう思ってきた人達も多いだろう。 ところが機内、 店、 レストラン、 公共の場、 及び職場に依っては、 ワクチン接種済みだろうが何だろうが、 屋内ではマスク着用となっており、 事態は変わっていない。 何の為のワクチンだったのかと抗議するワクチン派もいれば、 ワクチン接種の有無は個人の自由だと主張する反ワクチン派とで意見が噛みあい、 亀裂が入っており、 まさにソーシャルディスタンスが拡大され、 マスクの厚みも薄くはなっていかないだろう。
ちなみに去年縫った自家製布マスクの行方と言えば、 お気に入りの柄や色は数枚手元におき、 くだんの既製品のマスクと二重にして使っているが、 残りは鍋つかみとして使っている。 ものも考えようなのかもしれないなあと苦笑している。
随筆日: 11・5・2021
改訂日: 11・8・2021、 1/11/2021
投稿日: 2/8/2022
ウエッブ掲載日:2/19/2022
板橋恵理=関東地域で生まれる。家族の転勤と学校のため、幼年期から現在にいたるまで、日本ーヨーロッパー日本ーアメリカで生活する。現在は、アメリカ人の夫と老猫とロサンゼルスに在住している。趣味のひとつである太鼓にはまり、5年がたつ。老猫の名前もタイコ。