板橋恵理のカリフォルニア人間観察:マスクの行方
2021年6月16日、ロサンゼルスにて、板橋恵理
去年のコロナ環境下に置かれ、 マスクを作り始めた人達は多 いだろう。 私もその内の一人だった。 コロナ事態が発生し始めた去年の三月から数週間、 普段は品切れになるはずのなかったマスクがあちこちで売り切れになったり、 中にはパニック買いする客もいた。
ネットで検索したらミシンも安く売られていたので、 何十種類もの縫い方が出来なくてもいいから、 とにかくシンプルなものをとアマゾン経由で買い求めた。 もともと面倒臭がり屋、 短気、 手先不器用な私なので、 ユーチューブで一番簡単なマスクの縫い方を検索した。 といえど今やユーチューブの世界は凄まじく、 検索する度にこれでもか、 これでもかというくらいの数のマスクの縫い方がでてくるではないか。 圧倒され、 もう少しで 諦めるところだった。
当時ワクチンが出回る前で、 必要外の外出はなるべく控えていたが、 友人の情報を頼りに、 最寄りのWalmart ヘ布とマスクにつけるゴムを買いに足を運んだ。 Walmartでは1ヤードの布を単品として、 又は何種類かかの1ヤードの布をまとめて販売しており、 色々な柄や色を選ぶのは楽しかった。 1ヤードでマスクを二つ作ることが出来、 まだ縫い始めてもいないのに、 柄や色に目を奪われ、 「この色はXX さんに、 この柄はXX さんに。。。」 にと考えうきうきし始めていた。 しかしマスクにつけるゴムが何故か売り切れで、 仕方なくアマゾン経由で買い求めることになった。
何度も試行錯誤しながらも、 マスクを合計三十枚ほど縫った。 どうしても旨く出来ないゴムの縫いつけは、 ミシンでなく手縫いにした。 縫い目や型が歪んでいたりなど勿論失敗作もあるが、 初めて作ったことが嬉しくて、 失敗作は旦那に押し付けたり東部に住む姉夫婦に送ったりした。 テキサス州に住む友人のご主人が亡くなり、 一人でする庭の草むしりがセラピーになっていると聞けば、 友人の好きそうな花柄のマスクを送り、 癌の治療を無事終えたイリノイ州に住む犬好きの友人には、 可愛い犬の模様のマスクを送った。 サンフランシスコ方面に住んでいる友人には、 退職祝いも兼ねて色違いのマスクを二枚送った。 ロスに住む友人何人にかも好きそうな色や柄のマスクをあげた。
よく見れば失敗箇所もあり、 「決して身近で見ないように。 そして老眼鏡を通して見ないように。 何回か手洗いしたらバラバラになってしまう(?)かもしれないので、 車の中に入れたり、 バッグの中に入れたり、 あくまでも緊急用、 予備用として使って下さい」と何度も念を押した。 もしかしたら念を押しただけでなく、 マスクも押し付けた形になったかもしれない。 でも皆喜んでくれたのが嬉しかった。 私をよく知っている友人の一人は、 「まさか貴方が裁縫するとは思ってもみなかった!」と感嘆したのには笑ってしまった。
亡き母は、 簡単なものしか出来ないと言いながらも昔からミシンでブラウスやらワンピースなどよく縫ってくれた。 今度は何を縫ってくれているのか楽しみで、 忙しくミシンを動かしている母の横に座ってじっと見ていた。 手が空けば、 母はミシンの糸の通し方やら簡単な手縫いなども教えてくれ、 私もいずれ自分で何か縫えるようになりたいと願ったものだ。 生きていたら送っただろうと思われる、 母の好きそうな鮮やかな色の行方のないマスクが何枚か手元に残っている。 でも母が生きていたら、 「何、 この縫い目は?」と苦笑されてしまうかもしれない。
板橋恵理=関東地域で生まれる。家族の転勤と学校のため、幼年期から現在にいたるまで、日本ーヨーロッパー日本ーアメリカで生活する。現在は、アメリカ人の夫と老猫とロサンゼルスに在住している。趣味のひとつである太鼓にはまり、5年がたつ。老猫の名前もタイコ。
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