ロサンゼルス:嶋幸佑のアメリカ俳句鑑賞「松も植ゑ燈籠も据ゑ庭の春」

嶋幸佑が選んだ今日のアメリカ俳句(2020年1月6日)

「松も植ゑ燈籠も据ゑ庭の春」森寒川(モンテベロ)

この句は、アメリカに住んでいる者として、強い共感を覚えるものだ。たとえば、作者が住んでいるモンテベロを車で走る。そこはロサンゼルスのダウンタウンから東へ20分ほど走ったところ。日系の商店があり、日系の寺院があったりして、日系の人たちが多く住んでいる。走っていると、前庭の手入れが行き届いている家がけっこう目に付く。何気なしに「あれは日系人の家だな」と思う。「隣もそうだ」。すると、何となく落ち着いた気分になるのである。「我が同胞、ここにあり」。ひょっとして中国系の住人かもしれないし、最近はいろいろな民族の人たちがそれなりにきれいに手入れしているから、そこの住人が日系人とは限っていないのであるが…。そしてやはり、新たな年を迎えるのに向けて植えた松と、据えた燈籠であるということ。年が改まることに、日本人の多くは静謐の思いを抱く。植えた松、据えた燈籠を静かに眺めながら、新しい年を迎えている作者がいる。ちなみに、作者には「アメリカの月を愛で住む六十年」の句もあり、長年アメリカに住んでいるのは間違いないが、掲句がアメリカ在住何年ごろの作かは不明。ひょっとしたら、松を植えたのは20年前、燈籠を据えたのは10年前で、そうして生きてきたアメリカでの年月を思い浮かべながら、今年の新春を迎えている。そう読んだほうがいいかもしれない。そうすると「庭の春」が、引退してやっと訪れた人生の春でもあるという読みもできる。

【季語】春=新年、「北米俳句集」(1974年、橘吟社刊)より

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嶋幸佑(しま・こうすけ)ロサンゼルス在住40年。伝統俳句結社の大手「田鶴」(宝塚市、水田むつみ主宰)米国支部の会員。ロサンゼルスの新聞「日刊サン」のポエムタウン俳句選者。

今から100年ほど前、アメリカに俳句を根付かせようと、農業従事者や歯科医など各種の職業に就いていた日本人、主にロサンゼルス地区居住の俳人らが、日本流の風雅を詠うのではではなく、アメリカの風俗・風土の中に、自分たちの俳句の確立を目指していた。

このコーナー「嶋幸佑のアメリカ俳句鑑賞」は、そうした先人の姿勢を、現在に引き継ぐ試み。今でも多種多様な職業の人たちがアメリカで俳句を詠んでいるが、それぞれの俳句の、いわゆる「アメリカ俳句」としての立ち位置も読み解く。

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