
東京で開かれた第63回海外日系人大会:パネル討論にロサンゼルスから入江健二医師と池田啓子博士が参加。高齢者施設の必要を説明した。(Photo by Yuma Asakura)
コロナ禍で2020年からオンラインでの開催になっていた海外日系人大会(主催:公益財団法人 海外日系人協会、後援:外務省など)が、10月16日から三日間、JICA市ヶ谷ビルにおいて17カ国からの日系人やその関係者約200名の参加者を迎えて対面で開催された。大会の開会に合わせ秋篠宮夫妻が壇上に立ち、日系社会のさらなる飛躍や発展を期待するとの祝辞を述べました。
今年のキャッチコピーは、「飛躍するニッケイ社会へ- 期待される新世代のイニシアティブ」と題されました。同日の夕刻から飯倉公館で行われた外務大臣主催の歓迎レセプションでは、上川陽子外務大臣が、自らの座右の銘である「鵬程万里」(ほうていばんり:高い理想を掲げて遠くを見つめるという意味)という言葉を掲げ、幾多の苦難を乗り越え、各国の発展に多大な貢献をすることで信頼と尊敬を集めてきた日系人や日系社会に、改めて敬意を表しました。
17日の午後からは、「共生社会実現に向けての努力と貢献」というテーマでパネルディスカッションが行われ、ロサンゼルスからは入江健二医師と、池田啓子博士がパネリストとして登壇しました。両氏は共に非営利団体である高齢者を守る会の主要なメンバーとして活動し、敬老ナーシングホームの売却に反対し、日系社会に欠かせないナーシングホームの建設を目指している。
入江健二医師は、「ロサンゼルス地域には日本人や日系人約10万人が住んでいると言われています。今回は高齢者を守る会を代表して参加しました。」と冒頭で述べ、米国には多くの人種コミュニティーが存在しているが、アジア系へのヘイトクライムが多発している事も伝えました。日系施設は他人種コミュニティーの中で発生する問題から日系の高齢者を守るためにも有効だと考えており、ロサンゼルスでの日本文化を象徴する非営利ナーシングホーム施設の建設を目指していると発言しました。(入江医師の発言内容リンク)
その後登壇した池田啓子氏は、「1960年代からアメリカへの移住や長期滞在は増え続けており、日本国籍のまま米国で滞在している人は約6万人と推定され、様々なコミュニティーの間に葛藤を抱えている」と発言しました。また「アメリカでの介護費用の増加は、若い世代にも大きな問題を与え、日系人の14%が認知ケア施設を切実に求めている」という報告をしました。次世代の日系人の方々のために、欠かせない施設が必要だとの発言をしました。
会場からは、「なぜ旧Keiroへ協力を求めたのか?」という質問があった。それに対し、入江医師は、「最初は施設売却の反対を目標にした団体だったが、売却後は新しい日系のナーシングホームを建設するという方針に転換した。そのためには大きな資金が必要で、売却による莫大な資金を持ってシニアへのサポート活動をする非営利の団体であるKeiroに協力を求めていくのが私たちの正しい方針だと考えて、現在の理事長とも話し合いを続けている」との回答があった。
その後、フランスから参加したピレー千代美(在仏北海道人会)さんは、「現在のフランス在住の日本人は約36000人(内永住者は約12500人)を数え、継承としての日本語教育の問題がある。また親の介護のために日本国籍を失ったり、国籍の自動喪失をせざるを得ないという『つめたい法律』となっている。だが、国籍法では二重国籍を禁止する条項はなく、マスコミでも国籍に関する法律を間違って理解し報道しているケースもある。多くの国々や外国籍では与えられている二重国籍が、日本人だけには与えれれないという合理性のない法律を変えるために長年嘆願を続けている」との発言をしました。
最終日の18日には、「日系人の主張」をテーマにブラジル、フィリピン、ペルー、ハワイに住む日系人が登壇をし、ロサンゼルスからは、日本國風流詩吟吟舞会総師範の荒木淳一さんが、アメリカに移民した当時の苦労や、庭師の仕事の事、現在カラオケや詩吟に勤しんでいると発言しました。その後日本に在住する日系ブラジル人の子供たちが、日本での生活のことや将来のことに関して日本語で発表をしました。
最後に第63回の日系人大会の大会宣言が発表されました。大会宣言では5つの項目が宣言されました。1、情報通信技術(ICT)に通じる若い日系世代の知識やアイディアを活かす。2、日系をニッケイというカタカナで表記することで共生と共創と連携を深める。3、教育重視と相互扶助の観点から、高齢者に対する対応と問題解決に取り組む。4、日本生まれや日本育ちの二世三世の生活や仕事、人材の育成に取り組む。5、日系四世ビザの要件緩和をし、国籍喪失規定や国籍選択制度の撤廃を求める。というもの。
日本からの参加者も多く見られ、海外日系人協会の評議委員を6年務めている若尾龍彦氏や、以前ロサンゼルス総領事の任にあった兒玉和夫氏(現在は海外プレスセンター理事長)、ロサンゼルスで日系人の3部作のドキュメンタリーを撮影した映画監督のすずきじゅんいち氏も顔を見せました。海外日系人大会は今回で63回になるが、初期の頃の海外在住の日系人をもてなすことを目的にしていました。しかしながら現在は海外や日本に住む日系人やその子孫たちが、社会生活を向上させるために解決すべき問題点を話し合うことで解決を進めていくという方針に変わってきている中で、参加者も移民して苦労をした世代から、次の世代や若い世代になりつつあると感じた。(記事: Yuma Asakura)