ロサンゼルス:嶋幸佑のアメリカ俳句鑑賞「ガード優し遅々と苅りゐる黒人兵」

嶋幸佑が選んだ今日のアメリカ俳句(2020年6月15日)

「ガード優し遅々と苅りゐる黒人兵」臼田天城子(オクラホマ州フォートシール)

天城子の遺句集「楡の落葉」の第三部、戦時句からの一句。句に含まれている一つの言葉が気になったので、取り上げた。「黒人兵」である。「楡の落葉」に収録された約400句の戦時句に黒人兵を詠んだものは他になく、よほど何かに感じ入ったものがあったと思われる。それが何であるかだが、措辞から判断する限り、それはまず黒人兵であり、彼らが行っている作業だろう。

それと「ガード優し」にも感じるものがあったと思われる。それは、作業の遅さなど気にせず、見るでもなしに黒人兵の作業を見ている監視兵の態度なのか、あるいは、監視の兵らの天城子ら収容者に対する優しさなのか。

この句のすぐ隣に「一列に草苅る兵に遅日なし」がある。それから判断すると、やはり天城子の目は兵士に向いている。すると「ガード優し」は監視兵の黒人兵に対する優しさであると察せられる。第二次大戦中、日系人を収容した戦時転住局の10の強制収容所に配備された兵士は、これまで写真などで見ている限り、ほとんどが白人だったように思う。そうだとすれば、やはり天城子にとって黒人兵の存在が珍しかったのか。

この句が詠まれたのは、すでに紹介した「嶺々暗らく朝焼け空に皆祈る」を詠んだテキサス州サンタフェではなく、その前、オクラホマ州フォートシールの陸軍基地の抑留所である。こうした軍の基地では草刈りに兵士が使われたのだろう。ただ、草刈に白人の兵士も使われたのか、それとも、それは黒人兵の仕事とされていたのか。いずれにしても、強制収容所の中で、監視の兵士らとの間にふと緊張が緩む瞬間があったとしたら、これもその一つだったに違いない。

【季語】草刈=夏、遺句集「楡の落葉」(1957年刊)より

嶋幸佑(しま・こうすけ)ロサンゼルス在住40年。伝統俳句結社の大手「田鶴」(宝塚市、水田むつみ主宰)米国支部の会員。ロサンゼルスの新聞「日刊サン」のポエムタウン俳句選者。

今から100年ほど前、アメリカに俳句を根付かせようと、農業従事者や歯科医など各種の職業に就いていた日本人、主にロサンゼルス地区居住の俳人らが、日本流の風雅を詠うのではではなく、アメリカの風俗・風土の中に、自分たちの俳句の確立を目指していた。

このコーナー「嶋幸佑のアメリカ俳句鑑賞」は、そうした先人の姿勢を、現在に引き継ぐ試み。今でも多種多様な職業の人たちがアメリカで俳句を詠んでいるが、それぞれの俳句の、いわゆる「アメリカ俳句」としての立ち位置も読み解く。

このコーナーへの感想は editor@culturalnews.com へ送ってください