一月元旦、パサデナのコロラド通りをオレンジ色のマーチングバンドが躍動した。朝の陽光を浴びて先頭を行く日の丸の旗が眩しそうに揺れた。京都橘高校吹奏楽部(通称「オレンジの悪魔」)の生徒・卒業生の総勢200人だ。
整然とした軍隊のマーチングとは違う。エネルギッシュにステップを踏み、ポピュラー音楽を次々と奏でる。アメリカでは珍しい。言ってみれば、パサデナに突如、楽器を持った阿波踊りの一団が現れたようなものだ。
沿道の数十万人の観客は一瞬、その奇抜さに息をのむ。そして底抜けに明るい、騒々しい、アメリカ人独特の声援を送った。
「観客からの歓声は、次元が日本のとは比べものにならへん。<しんどい>という感情もすべて楽しさに変えてくれはりました」(辻本智秋さん=バスドラム)
「9キロの距離がほんの一瞬と感じられるほど、楽しくて、楽しくて、楽しい本番やったわ。あんなにも笑顔にあふれる本番は初めてやわ」(篠原采里さん=クラリネット)
アメリカに着いた途端、風邪をこじらせ寝込んでしまった卒業生二人も義足の生徒も本番では完歩した。終着点にたどり着いた「悪魔」たちはみな目をはらしていた。天下のローズパレードに出るという「一生に一度の夢」(辻本さん)が叶えられたのだ。
華やかなパレードの陰で草の根の出逢いがあった。二人一組でアメリカ人家庭にホームスティした。アメリカ最後の夜のコンサートが終わるや、ホストファミリーの人たちと泣きながら抱き合って、別れを惜しんだ。
「可愛らしくて、礼儀正しくて、素晴らしい日本の娘さんだったわ」(ラパルマ在住の主婦)
「悪魔」たちは、コンサートで集まった寄付金をカリフォルニア史上最悪の山火事の消火作業で殉死した消防夫たちの遺族においていった。
「生涯忘れることのない大切な思い出」(篠原さん)を胸に、チャーミングな「悪魔」たちは、爽やかな日米親善の足跡を残して帰っていった。
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このコラムは、2018年1月30日付け羅府新報、一面コラム『磁針』欄に「オレンジの悪魔」のタイトルで掲載されました。
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【著者紹介】高濱 賛(たかはま たとう)1941年東京都生まれ。在米ジャーナリスト。米パシフッィク・リサーチ・インスティチュート所長。カリフォルニア大学(UC)バークレイ校を卒業後、読売新聞入社。
ワシントン特派員として沖縄返還、ロッキード事件、ウォーターゲート事件など歴史的な出来事を取材報道。日本新聞協会賞最終候補にもなっている。
海外移動特派員、総理官邸、外務省、防衛庁(現防衛省)、国会、与野党担当各キャップ、政治部デスク(次長)、調査研究本部主任研究員(部長待遇)を経て、95年から3年間母校UCジャーナリズム大学院で初代読売ティーチング・フェロー(客員教授)として「日米報道比較論」を教える。
著書に『中曽根外政論』『日本の戦争責任とは何か』『アメリカの教科書が教える日本の戦争』『捏造と盗作』『結局、トランプのアメリカとは何か』など多数。
現在、日経BPオンライン、ジャパン・ビジネス・プレス、プレジデント・オンラインなどにコラムを連載中。日本の月刊誌、週刊誌への寄稿のほか、BS朝日『激論!クロスファイア』やインターネット・テレビ局「AbemaTV」、FM東京や米公共放送NPRラジオなどに随時「声の出演」をしている。北米大陸最古の邦字紙「羅府新報」の「磁針」のコラムニストでもある。
16年からあしなが育英会「アフリカ遺児高等教育支援100年構想」を支える「賢人達人会議」メンバー。サブサハラ各国の遺児たちの日米欧大学留学促進運動を進める玉井義臣同育英会会長のブレーン役を引き受けている。