Will the United States Abandon NATO?
The Ankara Summit and the Transformation of the Western Alliance
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アメリカはNATOを見捨てるのか
――アンカラ首脳会議が映し出す新しい西側同盟
在米ジャーナリスト 髙濱 賛 (Tato Takahama)
Pacific Research Institute
2026年7月7日
ワールドカップ決勝トーナメントでベルギーが米国代表を破った。
開催国アメリカの敗退というスポーツ上の出来事が世界の注目を集めた背景には、単なる番狂わせ以上の意味があった。大会前からトランプ政権は、女子スポーツへのトランスジェンダー選手の参加問題など、スポーツを文化的・政治的論争の重要な舞台として位置づけてきたからである。
スポーツのルールをめぐる議論は、いつしか「公平とは何か」「社会のルールを誰が決めるのか」という、より大きな政治的論争へと広がっていた。
その渦中で迎えた米国代表の敗戦は、海外メディアや識者の間で、単なる試合結果以上の象徴性を持って受け止められた。
そして数時間後、世界の視線はトルコ・アンカラへ移った。32カ国の首脳が集まるNATO首脳会議である。
サッカーと安全保障は、本来まったく別の世界である。しかし、この日、二つの舞台で浮かび上がったテーマには共通するものがあった。
それは、ドナルド・トランプ米大統領が、戦後長く維持されてきた国際秩序や制度のあり方について、「本当に公平なのか」と問い直している時代の変化である。
女子スポーツでは「競技上の公平性」を理由にルールの再検討を求める。NATOでは「加盟国間の負担の公平性」を理由に同盟の再設計を迫る。
対象は異なる。しかし、その根底には共通した問いがある。「これまでの仕組みは、アメリカにとって本当に公平なものだったのか」という問いである。
アンカラで始まったNATO首脳会議は、単なる恒例行事ではない。第二次世界大戦後、アメリカが軍事力と資金を中心的に負担してきた西側安全保障体制が、大きな転換点を迎えているからだ。
欧州は、自らの安全保障により大きな責任を負う覚悟を持てるのか。そして日本は、変化する西側同盟とどのように向き合うのか。
その問いが、いま改めて突きつけられている。今回の首脳会議の最大の焦点は、防衛費の増額そのものではない。本質は「同盟の役割分担」の見直しである。
トランプ氏は第一次政権以来、一貫して欧州諸国の防衛負担が小さすぎると批判してきた。
「アメリカが欧州を守り、欧州は社会保障や福祉に資金を回している」という不満は、トランプ支持層だけでなく、米国内の一部世論にも広がっている。
第二次政権に入ってからも、トランプ氏は「アメリカはもはや世界の警察官ではない」という考えを繰り返し示し、外交・安全保障政策の基本姿勢としている。
しかし、トランプ氏の姿勢を単純に「NATO否定」と見るのは正確ではない。
同氏が問題視しているのは、NATOという組織そのものよりも、加盟国間の負担構造である。
戦後80年近く続いた同盟体制は、アメリカが圧倒的な軍事力を提供し、欧州がその安全保障の傘の下で経済発展を遂げるという暗黙の分業によって成り立ってきた。
しかし、その構図は現在、アメリカ国内で再評価を迫られている。
米シンクタンク、ブルッキングス研究所のマイケル・オハンロン上級研究員は、欧州の防衛能力強化について、同盟の弱体化ではなく、長期的にはNATOの持続性を高める可能性があるとの分析を示している。
つまり問題は、「NATOを維持するか否か」ではない。「誰が、どの程度の責任を担うのか」という点に移っているのである。
トランプ氏が求めているのは、必ずしもNATOの解体ではない。むしろ、「アメリカだけが圧倒的な負担を背負うNATO」から、「欧州もより大きな責任を担うNATO」への転換を求めている、と見る方が実態に近い。
ただし、現在のNATOの変化をトランプ氏個人の登場だけで説明することはできない。トランプ氏が同盟関係に大きな衝撃を与えたことは事実である。しかし、「アメリカはどこまで世界の安全保障を負担すべきなのか」という議論そのものは、トランプ氏以前から米国内で続いていた。
冷戦終結後、アメリカは世界各地で軍事的役割を担ってきた。しかし、イラク戦争やアフガニスタン戦争の長期化、中国の台頭、国内財政への懸念などを背景に、「同盟国もより大きな責任を負うべきだ」という考えは徐々に広がっていた。
オバマ政権の「アジアへのリバランス」や、バイデン政権の同盟重視政策にも、形は異なるものの、同盟国の能力向上を求めるという共通した流れがあった。
トランプ氏の特徴は、この変化そのものを生み出したことではない。
すでに存在していた米国内の不満や戦略転換の流れを、「アメリカ・ファースト」という政治的メッセージによって最も強い形で表現し、加速させた点にある。
言い換えれば、トランプ氏がNATOを変えたというより、NATOを取り巻く環境変化があり、トランプ氏はそれを世界に見える形にしたのである。
アンカラでの議論も、その方向へ動いている。加盟国は、防衛費の増額だけでなく、防衛産業の共同育成、弾薬生産能力の拡大、人工知能(AI)やサイバー分野への投資強化について協議を進めている。
ロシアによるウクライナ侵攻は4年以上続き、欧州各国は「アメリカが必ず助けてくれる」という前提だけでは安全保障を維持できない現実に直面している。
その現実を最も強く認識しているのが、ロシアと地理的に近い東欧・北欧諸国である。ポーランドは欧州有数の規模で国防力強化を進め、バルト三国も防衛態勢の見直しを急いでいる。ドイツもまた、「時代の転換(Zeitenwende)」を掲げ、防衛政策の大幅な修正を続けている。
皮肉なことに、欧州が防衛投資を本格化させる背景には、ロシアの脅威だけではなく、「アメリカは以前と同じ形では関与しないかもしれない」という認識がある。
欧州ではトランプ氏への警戒感が根強い。しかし同時に、トランプ氏が突きつけた負担分担の問題が、結果として欧州自身の防衛能力強化を促している側面も否定できない。
アンカラ首脳会議は、その矛盾を象徴する場となっている。ただし、今回のNATO首脳会議を単純に「欧州対トランプ」という構図で見ると、本質を見失う。
欧州各国の指導者が直面している現実は、より複雑である。多くの欧州首脳は、トランプ氏の発言や政策手法に懸念を抱いている。しかし同時に、現在でもアメリカの軍事力がNATOの中核であることも認めざるを得ない。
欧州だけで短期間に、米軍が持つ情報収集能力、衛星監視、戦略輸送能力、核抑止力を完全に置き換えることは困難である。
つまり、欧州が求めているのは「アメリカからの独立」ではない。「アメリカへの過度な依存からの脱却」である。この微妙な均衡の上に、現在のNATOは存在している。
開催国トルコの存在感も重要である。トルコはNATO加盟国でありながら、欧州ともロシアとも独自の外交関係を維持してきた。
レジェップ・タイップ・エルドアン政権は、ウクライナへの軍事支援を行う一方、ロシアとの対話の窓口も残している。西側諸国から見れば、トルコは扱いの難しい同盟国である。しかし、黒海、中東、地中海を結ぶ地政学的位置を考えれば、NATOにとって極めて重要な存在であることに変わりはない。
アンカラで首脳会議が開かれること自体が、これからのNATOが単なる「欧米同盟」ではなく、より広い地政学的ネットワークへ変化していることを示している。
そして、その変化は日本にも直接関係している。日本はNATO加盟国ではない。しかし近年、日本とNATOの関係は急速に深まっている。
日本、韓国、オーストラリア、ニュージーランドの4カ国は、NATOのインド太平洋パートナー(IP4)として、サイバー防衛、宇宙、安全保障技術、偽情報対策などの分野で協力を進めている。その背景には、ロシアによるウクライナ侵攻と、中国の軍事的台頭という共通の問題意識がある。欧州の安全保障とインド太平洋地域の安全保障は、もはや別々の問題ではない。
ロシアによるウクライナ侵攻は、「力による現状変更」が欧州だけの問題ではないことを示した。中国による台湾周辺での軍事的圧力もまた、既存の国際秩序への挑戦として受け止められている。
ロンドン大学キングス・カレッジのローレンス・フリードマン名誉教授は、現在の安全保障環境について、欧州とインド太平洋の問題は相互に関連するようになっており、地域ごとに切り離して考えることが難しくなっているとの分析を示している。
安全保障上の課題が複数地域で連動する時代に入り、日本とNATOの協力もまた、単なる外交交流ではなく、より大きな戦略構想の一部になっている。
日本にとって重要なのは、NATOの変化を遠い欧州の問題として見ることではない。
アメリカが単独で世界の安全保障を支える時代から、同盟国がより大きな責任を分担する時代へ移行する中で、日本自身がどの役割を担うのかという問題である。
もちろん、日本には憲法上の制約があり、欧州諸国と同じ形で軍事的役割を果たすことはできない。
しかし、防衛技術、サイバー安全保障、海洋監視、経済安全保障など、日本が貢献できる分野は広がっている。
重要なのは、「アメリカが守ってくれる」という前提だけに依存する発想から、「同盟国とともに秩序を支える」という発想への転換である。
これは日本だけの問題ではない。
韓国、オーストラリア、そして欧州各国も同じ課題に直面している。
今回のNATO首脳会議が示しているのは、アメリカの影響力が消えるということではない。
むしろ、アメリカの役割が変化しているということである。第二次世界大戦後、アメリカは西側世界の軍事的中心だった。マーシャル・プラン、NATO創設、冷戦期の抑止戦略。そのすべてにおいて、米国は「自由主義陣営を守る国」として行動してきた。
しかし21世紀のアメリカは、自国の負担と利益の関係をより厳しく問い直すようになった。
トランプ氏は、その変化を最も強い言葉で表現する政治家である。
スポーツの世界でも、安全保障の世界でも、彼が投げかけている問いは共通している。「そのルールは、本当に公平なのか」
女子スポーツでは、競技カテゴリーの公平性をめぐる議論になった。NATOでは、加盟国間の負担の公平性をめぐる議論になった。もちろん、スポーツと国際政治を同列に論じることはできない。
しかし、両者に共通するのは、長年当然とされてきた制度が、社会環境の変化によって再検討を迫られているという点である。
ワールドカップでベルギーが米国を破った夜、アンカラでは欧州とアメリカの首脳たちが、西側同盟の未来について議論していた。
二つの出来事は、2026年という時代の空気を象徴していた。アメリカは依然として西側の中心である。しかし、「アメリカが圧倒的な負担を担い、他国を支える時代」は転換点を迎えている。
トランプ氏がNATOを見捨てるのか。その問いへの答えは、単純な「Yes」でも「No」でもない。
問われているのは、アメリカがNATOから離れるかどうかではなく、アメリカを中心としてきた同盟が、どのような新しい形に変わるのかという問題である。
これからの西側同盟は、アメリカが一方的に支える仕組みではなく、各国がより大きな責任を分担するネットワークへ変化していく可能性が高い。その新しい時代に、日本がどの位置を占めるのか。アンカラで始まった議論は、欧州だけの問題ではない。
ワシントン、東京、そしてインド太平洋全体に向けられた問いなのである。
参考文献
- NATO, “NATO Summit in Ankara 2026,” July 7, 2026.
- NATO, “Defense Expenditure of NATO Countries (2014-2026),” June 2026.
- Reuters, “NATO Leaders Meet in Ankara as Trump Pushes Allies to Spend More on Defence,” July 7, 2026.
- Financial Times, “Europe’s Defence Build-up Enters a New Era as U.S. Commitment Is Questioned,” July 2026.
- The Wall Street Journal, “Trump’s NATO Strategy Tests Europe’s Defense Commitments,” July 2026.
- European Commission, “European Defence Industrial Strategy,” March 5, 2024.
- U.S. Department of Defense, “Indo-Pacific Strategy and Allied Cooperation,” 2026.
- Ministry of Foreign Affairs of Japan, “Japan-NATO Cooperation,” 2026.
- NATO, “Relations with Partners in the Indo-Pacific Region,” 2026.
- FIFA, “FIFA World Cup 2026 Regulations and Competition Framework,” 2026.
- U.S. Soccer Federation, “U.S. Men’s National Team at FIFA World Cup 2026,” July 2026.
- Michael O’Hanlon, Brookings Institution, analysis on NATO burden sharing and European defense capabilities, 2025-2026.
- Lawrence Freedman, King’s College London, analysis on the changing global security order and the relationship between European and Indo-Pacific security, 2025-2026.
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English Summary
Will the United States Abandon NATO?
The Ankara Summit and the Transformation of the Western Alliance
When Belgium defeated the United States in the FIFA World Cup knockout stage, the result attracted global attention not only as a major sporting upset but also as a reflection of a broader political moment. Under the Trump administration, debates over sports rules, including restrictions on transgender athletes’ participation in women’s sports, had become part of a wider discussion over fairness, social rules, and who defines them.
Hours later, global attention shifted to Ankara, where NATO leaders gathered to discuss the future of the Western alliance.
Although sports and national security belong to different worlds, both events reflected a similar question raised by President Donald Trump: whether long-standing systems and rules were still fair to the United States.
Trump’s criticism of NATO has focused less on the existence of the alliance itself and more on the distribution of responsibilities among its members. His demand that European allies increase defense spending reflects a broader debate in the United States that predates Trump’s political rise.
The question of whether America should continue carrying a disproportionate share of the global security burden had already emerged after the Cold War, fueled by the prolonged wars in Iraq and Afghanistan, China’s growing military power, and domestic fiscal pressures. Trump did not create this transformation, but he accelerated and made visible a trend that was already underway.
The Ankara summit highlighted this transition. European nations are increasing defense investment, strengthening military industries, expanding ammunition production, and improving capabilities in areas such as artificial intelligence and cyber security. However, Europe is not seeking a complete separation from the United States. Rather, it is seeking to reduce excessive dependence while maintaining the strategic value of the American alliance.
The changing role of the United States also carries important implications for Japan. As security challenges in Europe and the Indo-Pacific become increasingly interconnected, Japan’s cooperation with NATO is expanding beyond symbolic diplomacy into practical areas such as cyber defense, space security, and economic security.
The central question is not whether America will abandon NATO, but how the alliance will evolve in an era when the United States no longer wishes to bear the overwhelming burden alone.
The Western alliance appears to be moving from a system led almost entirely by Washington toward a network in which allies share greater responsibility.
For Japan, the debate in Ankara is not a distant European issue. It is a question about Japan’s own role in a changing international order.
Note: The English translation of this article was prepared by the author. Translation assistance tools may have been used.

