LA関西クラブ報告:大阪の盆踊り文化「河内音頭」をロサンゼルスで~どっこいせ~

Kansai Club Kawachi Ondo at Taste of Japan Anahiem June 23, 2024

LA関西クラブの河内音頭、2024年6月23日、アナハイムの Taste of Japan にて(Photo by Gene Yokota)

2025年の「大阪・関西万博」の開幕が迫っている。大阪といえば河内音頭(かわちおんど)、河内音頭といえば、八尾。1970年の大阪万博や、2005年の愛・地球博の会場でも踊られた河内音頭の元気が良いようだ。記憶に新しいのは2017年9月9日、「第40回八尾河内音頭まつり」にて、ギネス世界記録の「最多人数で一つの踊り方で間違えずに踊る盆踊り」(Largest Bon Dance)および「一つの会場内で浴衣を着て踊る最多人数」(Most people Wearing Yukata)に挑戦し成功。パンデミック後、盆踊りは全国各地で盛り上がりを見せるが、この時の河内音頭2872人の記録はいまだに破られていない。はるばる海を越えたここアメリカ合衆国、カリフォルニア州でも実は今、河内音頭が熱い。

文化、人種のるつぼアメリカ合衆国でも、日本の伝統音楽や芸能を継承する人たちは多いが実は河内音頭だけを演じるものも現れる。カリフォルニアはサンフランシスコの山昌会(やましょうかい)が長年古典の河内音頭を紹介し活躍していたが、2020年に解散。引き継ぐかのようにロサンゼルスでは関西クラブ(大阪、京都、奈良、兵庫の県人会組織)を中心に、河内家菊水丸のスタイルを真似た「ちーむ河内音頭(Team Kawachiondo)」がにぎやかに台頭してきた。この盆踊りバンドはカリフォルニアだけでなくシカゴやアリゾナ州フェニックスなどにも招かれ演奏活動を展開する。ロサンジェルスの日本人町「リトル東京」は今年140年を迎えたが、日系の最大の祭り「第82回二世ウィーク」でも演奏しするなど、日系人のコミュニティの一体化を目指し発信している。

LA Kansai Club Kawachi Ondo at 2024 Nisei Week

LA関西クラブの河内音頭、2024年8月18日、第82回二世ウィーク・ストリート音頭にて (Photo by Mark Shigenaga)

さて、いったい河内音頭とは何なのか。ひらたくいうと、歌ではなく大阪の盆踊り文化そのものなのだ。河内音頭は大阪府北から中河内地域を起源とした伝統的かつ変化しつづける、大衆音楽の確立したジャンルでありカテゴリーである。いくら「音頭」と名前がついても、花笠音頭や東京音頭のような「曲名」ではない。という点では、沖縄民謡における「ユンタ」と同じ、ということだ。

楽譜や定型の歌詞のない口承伝統音楽であるが、他の民謡と違うのは、いまだに変幻自在であり、自由な楽曲として歌謡曲や洋楽の影響も受け独自の進化を遂げてきた。90年代、八尾市出身の河内家菊水丸が復活させたポップスと浪花節ミックスの新聞(しんもん)詠みスタイル、ニューウェイブ風、ロック調、レゲエやスカの河内音頭さえある。

その起源は実は古く江戸時代にさかのぼり、北河内の交野節を原型とし、大正時代に流行した江州音頭、伊勢音頭の影響を受けたという説が主流。他の盆踊り曲にもれず、仏教との関連が深く、さらに各地の土着の音頭や民謡、浄瑠璃、祭文などが長い時間をかけて混ざり合ってきたとされている。主流のメロディとしては、現存する最古の録音の『正調河内音頭』(大正から昭和初期録音)を聞くと、交野節・江州音頭などにかなり似ているが今の河内音頭とはかなり違っている。

踊り方についても様々なスタイルが存在する。優雅でゆったりとした「手踊り」や、活発で躍動的、ラインダンスのような「マメカチ踊り」(和歌山県で非常に人気がある)、大阪市内の堀江音頭を基にした「流し踊り」などさまざまな型があるが、先の流し節に合わせる踊りは手踊りがベースとなっており、しなやかな手の動きがメイン。10拍が1セットになっている振り付けを繰り返す。

河内音頭は、文学や映画、芝居の題材としても扱われ、今東光長編小説『悪名』(あくみょう)では昭和の戦前期の八尾を舞台に「八尾の朝吉」こと村上朝吉が故郷の河内を出て、博徒として喧嘩と恋に明け暮れ、暗躍するやくざを征伐するさまが描かれていた。民謡の歌い手、三味線ひきでもあった当時の人気スター勝新太郎田宮二郎が演じたことで爆発的な人気を博した。八尾がどこか知らない人も、「八尾の朝吉」は知っている。河内音頭は、音楽であり、踊りであり、民俗であり、文学やアートのテーマともいえるのだ。

ああ えんやこらせ~どっこいせ~

現在もセミプロ、アマチュアを含む数多くの音頭取りに受け継がれ、様々な背景を持つ音頭取りや踊りのグループが集う文化が根付いている河内音頭。河内地域以外の大阪南部や和歌山、そして奈良県でも、盆踊りのメインの演目として盛んに歌われ語られ踊られる。東京、すみだ錦糸町の河内音頭まつりなどもあり、なんと今年は第42回だったという。日本全国いや世界中に広がっているのが興味深い。

遠く離れたカリフォルニアでも半年の練習を積み、当日は着飾って、祭りの熱で人とご先祖そしてコミュニティとつながる。日系人が大切にしてきた盆踊り。故郷への思い、音楽で、踊りで暮れる夏の盆踊りには言葉はいらず、手拍子で、マメカチ(足拍子)で、えんやこらせ~と踊るのだ。2024年も終盤、さすがに盆踊りは落ち着いた。来年もまた元気な河内音頭で大阪、日本を、そしてロサンゼルスの大谷選手を応援し、庶民の盆踊りで日本文化を楽しむアメリカ人をどんどん増やしていってほしい。

文責:河内の風太郎
2024年11月1日

LA Kansai Club Kawachi Ondo at Tanaka Farm 2019

LA関西クラブの河内音頭、2019年秋Tanaka Farmの秋祭りにて (Photo by 松豊会メンバー)