By 鶴亀 彰(ロサンゼルス在住)

11月18日、ニューヨーク時間の午後6時(ロサンゼルス時間は午後3時、日本時間は11月19日の午前8時)MLB(Major League Baseball)はロサンゼルス・エンゼルスの大谷選手がアメリカンリーグのMVP(Most Valuable Player)に選ばれたと発表しました。48本で本塁打王のゲレロ選手や45本塁打のセミエン選手を押さえての受賞でした。ナショナルリーグはブライス・ハーパー選手でした。

大谷選手はすでに現役の選手たちが投票するアメリカンリーグの最優秀選手に選ばれていましたが、今回のは全米野球記者協会に所属する30人の記者たちが選んだ最優秀選手でした。20年前の2001年に当時シアトル・マリナーズのイチロー選手が日本人として初めてこの栄誉に浴していましたが、大谷選手が二人目となりました。

それにしても、今年の大谷選手の活躍は米国や日本のみならず、野球を愛する多くの国々で大きな話題となりました。23回登板し、9勝2敗の成績、打っては46本のホームラン、走っては26盗塁の素晴らしい結果でした。またオールスターゲームにメジャーリーグ史上初めて投手と打者として同時参加した選手となりました。

今年の大谷選手の活躍は単に本格的な「二刀流」として実績を上げただけでなく、そのことは野球の本場であるアメリカにおいて大きな変化をもたらしました。今までのメジャーリーグの常識を打ち破りました。大谷選手の成功を見て、今後、二刀流に挑戦する選手も増えるでしょうし、そして投手か野手かとの現然たる区別にも影響が出るでしょう。

イチロー選手の登場もメジャーリーグに変化をもたらしました。それまでは野球の楽しみは豪快なホームランでした。打者たちもホームランか三振かという、極めてはっきりした形でした。ヒットも外野に痛烈に飛ばすものが好まれました。しかし、イチロー選手は足の速さを活かしての内野安打や盗塁やフェンスギリギリのキャッチなどで沸かせ、野球の楽しみを広げました。

そして今度は大谷選手の二刀流の楽しみです。投げて良し、打って良し、走って良し、本当に彼のプレイを観るのは楽しみでした。またそれ以上に彼の人間性です。グラウンド上では敵味方なく笑顔で話し合い、ベンチで働く人々にも心を配ります。敵地の野球場の観客の間からも「オータニ・コール、ショーヘイ・コール」が上がっていました。

表面的にはあまり語られていませんが、イチロー選手や大谷選手がアメリカにもたらした、より大きなものがあると私は感じています。それはバットやグローブなど、自分が使用するものを大切に扱う習慣です。物に対する敬意や愛着がそこにはあると思います。これは少なくとも私が知る限り、メジャーリーグの野球選手の間ではそれほど一般的な習慣というか心構えではないと思います。

すでに中南米地区出身でメジャーリーグで活躍する若い選手たちの間では日本の選手に学び、自分のバットやグローブなどを大切に扱う態度が増えているそうです。嬉しいことではありませんか。日本の精神性が大量生産、大量消費のアメリカの便利さや合理性に少しずつ新たな価値を示し始めているのかも知れません。

大谷選手が渡米を後二年待てば高額年俸契約が出来るのに、お金に構わず渡米を優先した時、野球大好きな私の息子や義弟は「損な判断だ」と言いました。しかし、大谷選手はお金ではなく野球の本場での挑戦を選びました。そしてさまざまな挫折や苦労もあったものの、それを乗り越え、今年の成功を勝ち取りました。

彼の野球場での行動や表情から、いかに彼は野球が大好きで、心から楽しんでいるかが自然に伝わって来ます。それにアメリカの野球好きな子供や大人も魅了されているのです。そしてそれは一般のアメリカ人にも伝わりつつあります。今まであんまり野球を観なかった人々までもが彼の名前が付いたTシャツを着て、応援に駆け付けています。

子供の頃、彼に野球を指導した彼の父親は「いっしょうけんめい、大声を出せ」「いっしょうけんめい走れ」と教え、決して「ヒットを打て」とか「エラーするな」とかは言わなかったそうです。結果は求めるものではなく、基本的な努力がもたらすものとの考えがあったのでしょう。大谷選手は今でも一生懸命投げ、打ち、走っています。その結果がMVPです。

特にアメリカの地で生活している多くの日本人や日系人の人々には日本人としての誇りと喜びまで与えて呉れています。コロナ渦の中で閉塞感がある中で、大谷選手の活躍は日々の清涼剤でした。大谷選手、MVP受賞、おめでとう! そして、ありがとう! また来年の今年に勝る活躍を今から期待しています。

鶴亀彰さんの略歴=1966年、企業駐在員として渡米、ロサンゼルスとニューヨークで勤務。1980年に日米のビジネス交流を支援するカリフォルニア・コーディネーターズ社を起業、40年間に渡り、日本から米国やメキシコに進出する日本企業支援、米国市場を目指す米国ベンチャー企業の支援を行う。

金沢大学大学院の客員教授や中央大学商学部の客員講師などを務める。2018年には雲田康夫さん等と一緒に、「日系パイオニアに感謝する会」を提案、実現し、2019年は雲田さん、鳥居欣一さん、高山秀男さんと発起人の一人となり「チャランポランの会」を設立、現在、同会の運営委員を務めている。