読書感想:元テレビ局社長が書いた札幌からの文化活動レポート 

『日々雑志記・なんか変だな』
長沼 修 著

亜瑠西社(札幌市)刊
2020年12月 発行

サンタバーバラ市で長年にわたり姉妹都市協会の会長を務めている脇田孝子(わきた・たかこ)さんから本が送られてきた。札幌在住の弟、長沼修(ながぬま・おさむ)さんが書いた『日々雑志記・なんか変だな』、2020年12月に札幌の出版社から刊行された単行本。

脇田さんは札幌市の出身で、6人兄弟。弟の長沼修さんは、札幌のHBC北海道放送テレビで、ドキュメンタリーやドラマを制作するプロデューサーを経て、このテレビ局の社長になった。テレビ局社長のあとは、札幌ドーム社長を務めて2017年に完全引退した。

引退直前から三年間にわたり、北海道新聞の朝刊コラムに掲載された文章が加筆され、単行本になった。「生」「人」「楽」「芸」「思」の5章から成るが、「第四章・芸、一部、楽興の時」が札幌の文化活動を詳しく伝えている。

長沼修さんは、北海道大学農学部を卒業しているが、学生時代は北海道大学交響楽団に青春のすべてを捧げている。最初はコントラバス奏者として入団したのだが、マネージャ―としての才能が開花、その縁で北海道放送にも入社している。

音楽企画と実行力に天性の才能を持つ長沼修さんが、世界の一流プレイヤーが集う札幌のジャスの店や、晩年、札幌で暮らし、亡くなったバンドネオン(アコーディオンに似た楽器)のドイツ人演奏者を追悼したコンサートのようす、60年間にわたり北海道大学交響楽団を指導した84歳の常任指揮者による北大交響楽団の定期演奏会のようすを伝えてくれる。

北海道とテレビといえば、ドラマ「北の国から」(フジテレビ制作)が有名だが、「北の国から」の脚本家、倉本聰は、北海道放送にも脚本を書いている。長沼修さんは、倉本作品10本のプロデューサーを務めた。「第四章・芸、二部、創る」では、倉本聰とのエピソードを、伝えている。

長沼修さんの札幌からのテレビ制作レポートは、歌曲「野ばら」をテーマにした番組作りへと続く。19世紀前半のドイツの文化人ゲーテの詩「野ばら」には154のメロディーがある。このことを研究している北海道の大学の先生を見つけたHBCテレビは、1980年代の半ば、3回に分けてヨーロッパ各地を取材し、番組を作った。取材費を使いすぎた責任を取って長沼修さんは、テレビ局に辞表を書いているのだが、その後、この番組は次々と賞を取り、テレビ局は製作費を改修できた、というエピソード。

ペリーが来日する5年前、日本人に世界情勢を伝えたいと、鎖国中の日本へ密航してきたインディアンとスコットランド人の混血カナダ人が居た。当時24歳のラナルド・マクドナルドで、自叙伝「Ranald MacDonald」が1923年に出版され、アメリカでの日本理解に大きな影響を与えている。

1848年、マクドナルドは、漂流者を装って、北海道から日本に入った。マクドナルドの日本滞在は10カ月だった。長沼修さんは、日本語翻訳の『マクドナルドの日本回想録』を見つけ、制作費3億円で、テレビ・ドラマを作ろうとした。この企画は実現していなのだが、私は、長沼修さんが、この企画を次世代のテレビ番組制作者たちに託そうとしているように受けとめた。

長沼修さんが、とても、うれしかったことが伝わるエピソードが、今や、世界的に認知された映画監督、是枝裕和との6時間にわたるステージ・イベント。2018年に是枝裕和さんの「万引き家族」がカンヌ国際映画祭で最高賞を取った後の企画だった。長沼修さんと対談するために、是枝裕和さんは、長沼さんが演出したHBCのドラマ30本を全部見ていたのだった。

(カルチュラル・ニュース編集長、東 繁春)