ロサンゼルス:嶋幸佑のアメリカ俳句鑑賞「月の畑揚げ水遥か止めに来し」

嶋幸佑の選んだ今日のアメリカ俳句(2019年11月2日)

「月の畑揚げ水遥か止めに来し」岩下蘇村(サンタバーバラ)

 

「蝉蛙(せんあ)会」の第211回応募俳句の天位作品。サンフランシスコにあった日本語新聞「日米」に1909年に俳句欄が創設され、2、3年後に蝉蛙会と名付けられたようだ。初代の選者は山中東山だったが、古屋夢拙が二代目の選者となったころには、地元サンフランシスコはじめ、カリフォルニア州の各地から多くの作品が寄せられた。ロサンゼルスからの投句者も多かった。その後、句会も開くようになった。夢拙が1923年3月に日本に帰国してからは、森素人が選者となる。掲句の作者である蘇村はサンタバーバラにあった「珊風会」のメンバーで、農業に従事していたものと思われる。秋植えの野菜の畑に水をあげていたのだが、そろそろ十分だろうと、水を止めにきた。「遥か」とあるから、かなり広い畑だ。遠くまで地面が水で覆われている。そして、なんと、その水に月が映っていたのだ。作者の感動は計り知れない。まさに、広大なアメリカの大地に根付いた「アメリカ俳句」の真髄を示した一句である。なお、サンタバーバラはカリフォルニア州南部の沿岸にある風光明媚なリゾート地で、近郊のオックスナードはイチゴ栽培で有名。

【季語】月=秋、1923年11月4日付け「日米」より

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嶋幸佑(しま・こうすけ)ロサンゼルス在留40年。伝統俳句結社の大手「田鶴」(宝塚市、水田むつみ主宰)米国支部の会員。ロサンゼルスの新聞「日刊サン」のポエムタウン俳句選者。

今から百年ほど前、アメリカに俳句を根付かせようと、庭師や歯科医など各種の職業に就いていた日本人、主にロサンゼルス地区居住の俳人らが、日本流の風雅を詠うのではではなく、アメリカの風俗・風土の中に、自分たちの俳句の確立を目指していた。

このコーナー「嶋幸佑のアメリカ俳句鑑賞」は、そうした先人の姿勢を、現在に引き継ぐ試み。今でも多種多様な職業の人たちがアメリカで俳句を詠んでいるが、それぞれの俳句の、いわゆる「アメリカ俳句」としての立ち位置も読み解く。

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