三陸慕標:陸前高田の一本松
(陸前高田の一本松の気持ちになって、詩を作ってみました。東 繁春)
奇跡は起こらなかった
わたしにも、奇跡はおこらなかった
悲しいことが続くと、ひとびとは、英雄をつくりたがる
ひとびとは、わたしを、英雄にしたかった
しかし、わたしにも、奇跡はおこらなかった
海が真っ黒になったことが見えた
気がついたときは、わたしは海の底にいた
何万という仲間といっしょに、海の底にいた
何万の仲間が、つぎつぎに倒れてゆき
ついに、わたし、ひとりになったとき
奇跡は起こらなかった
わたしにも、奇跡は起こらなかった
もう、疲れた、ゆっくり、眠らせてほしい
体を切り刻んで、塩漬けにするのは、やめてくれ
何万の仲間のように、今は眠らせてほしい
わたしにも奇跡は起こらなかったのだから
雪が過ぎ、風が過ぎ、春がきたら、種をまこう
わたしの種をまこう
そうすれば、奇跡は起こる