石井志をんの旅行記 ドンデエスタマチュピチュ(5)

石井志をん「マチュピチュ」

ドンデエスタマチュピチュ(5)

石井志をん

その人が現れたのは一時間以上も待った頃である。一見苦み走った四十がらみの男が自信に満ちた足取りでホテルのロビーに入ってきた。世慣れた風情の男は一目見てツアーガイドだと解った。

「随分遅いですね」しびれを切らせていたのでつい出てしまった一言に「時間どうりですよ」と言う返事であった。。

その日のツアーの仲間は私を含めて全部で6人、中南米出身のモデルのように長身なカップル(男は身長2メートル近く女は180センチ程)、中国人の、こちらもモデル体型の透き通ったように白いお肌の美女、それに肌の浅黒いインド人の可愛いカップルである。

55歳以上の高齢者の団体と聞かされていたのが、みんな30歳前後。「おいおい55歳以上は何処へ行ったんじゃ」とツアーガイドに苦情を言った処で何も始まらない。と言う訳で私から見たら青春真っ盛りに見える面々の中で高齢者の私は一人狼の群れに放り込まれた羊のように大人しくするしかなかった。

しかし物は考えようでらる。知人の男性が文化講座を受けに行って帰ると開口一番「婆さんしかいなかった」である。婆さんのどこが悪い、婆さんで何が悪い、大体お前は自分が爺さんであると言う自覚が無いのか。とかく男は幾つになっても若い娘が好きである。ま、婆さんも若い男が好きなのは同じだがそれを顔に出すようなはしたない真似はしない。と言う訳で労せずして美しい若者達の仲間に入れて貰った事を喜ぶ事にした。

目指すはクスコの郊外サクシウーマン(セクシーウーマン?)である。バスは繁華街を出て郊外を抜ける。折から母の日と言う事で右左の公園の芝生には家族連れのパーティーが広がる、こういうのが良いんだよね母の日は。

バスはインカ街道をまっしぐら、更なる高地サクシウーマンを目指して進む。

目的地に到着し、坂道を歩き出すと先ずインドの青年が話しかけてきた。

「何時来たの?」、

「昨日着いたばかり」

「僕たちも」

彼らはサンフランシスコからで職場はIT企業だと言う。

「私はサンタクルーズからよ」

「僕はハイカーなんです」

「あら、私もよ」もしかしたら何処かのハイキングコースですれ違っているかも知れない。

ツアーの仲間は皆親切だったがインド人の青年は特に優しかった。少し道の険しい処にくるとすかさず手を差し伸べてくれた。

(続く)