石井志をんの短歌研究、家族の歌
松江久志(まつえひさし)「花宇宙」春の巻 (その十二)
「恋人は恋人同士老いわれは妻の手を取り桜をくぐる」
「闇の中漂い咲ける夜桜に紛れし老母かと心乱るる」
松江久志の著書「花宇宙」副題「松江久志の植物短歌歳時記」より
最初の歌、花見の客の中には恋人達も居る。彼らは若い、若いということは即ち美しい、その若さ美しさが羨ましくも有る。しかし歌人は若い恋人達をうらやんでいるばかりではない。「老いわれは」とは言っているが本心は自分をそれほど老いたと思っている訳ではない。そしてアンタたちにゃまだ負けないよと愛妻の手を取って桜の花の下を歩くと言うユーモア溢れる歌。
二首目、母を伴って夜桜見物に行った。桜とはただでさえ妖しい花だが夜桜の美しさ妖しさは昼間見る桜の比ではない。その花に心奪われて見とれているとあっという間に時が過ぎる、ふと我に返ると傍にいた筈の母の姿が無い。心乱るるというからその心配も一通りでは無い。闇の中に漂うように咲く花に紛れてしまったのではないかと慌てる歌人。孝行息子のその狼狽ぶりが目に見える。
数多い歌人の歌の中でも私はこの歌が一番と言っても良い程好きだ。
余談だが、夜桜見物には、たとえ誘われても好きな人としか行ってはいけない。私の知人が或る牧師に夜桜見物に誘われて行った。その時花の妖気に狂わされでもしたのか牧師は彼女にキスしてしまった。互いに伴侶が有る身であった。
「サクラ
Prums
Cherry blossom
Japanese cherry blossom
バラ科落葉花木
日本を代表する花木
ヤマザクラがサクラの原種
単弁で白く花と共に新芽がでる
【花言葉】優れた美人 精神美 純潔」
「花宇宙」より
歌人 石井志をん 千葉県出身、カリフォルニア、サンタクルーズ、フェルトン市在住、日刊サン短歌部門の選者を務める、カリフォルニア短歌会会員、新移植林会員。
二〇二二年二月記
(注、カリフォルニア短歌会はロサンゼルス在住の松江久志主宰、新移植林はロサンゼルス在住の中条貴美子主宰、どちらにも北米と日本の歌人が在籍する)