板橋恵理のカリフォルニア人間観察/ 上に立つもの: アフガニスタン現状において

投稿2021年8月30日、ロサンゼルスにて、板橋恵理
(ウエッブ掲載:2021年9月3日)

 

アフガニスタンで反政府勢力テロ団のタリバンが、  大勢の意表を突くほどの速度で州都と大統領府を次々と支配し、 ガニ大統領は国外へ脱出し政権が破壊した。  その後の治安情勢が急激に悪化し、 アフガニスタン市民を始め、  駐留中の他国からの人々の命が恐怖にさらされている。

アメリカ軍を始め、 フランスやドイツなどが大使館職員たちを首都カブールにある空港や空港周辺へと移動させ退避に尽くしているが、   タリバンの要求である、  今月8月31日期日までのアメリカ軍の完全撤退に同意したアメリカ政府と対応の仕方に批判する声が高く上がっている。  そんな中で、  表面上のみタリバンの敵と言われているISIS-Kのテロ団に依る自爆事件も空港で発生し、 アメリカ兵士と市民の被害者も多く出した。

空港への道や検問所は既にタリバンに押さえられているし、 アメリカ軍の通訳として長年尽くしたアフガニスタンの市民やその家族の命は危機にある。  タリバンに捕まれば殺害確実である。  何日もかかってやっと空港近くまで辿り着いた家族、  せめて子供を無事にとアメリカ軍兵士に赤ん坊を手渡す親、  タリバンの検問所では嘘をつきながら何とか通り越した家族、  アフガニスタンに残っている妻と子供の安全出国を願う、  アメリカ在住のアフガニスタン男性、  空港までの道上、  女性に対する人権を抑圧するタリバンに暴行を受けながらも何とか必死で空港近くまで辿り着いた女性、  空港まで命がけで辿り着いたものの、  脱出においての書類が揃っていなかったり不完全のために空港止めになってしまった市民もいたりと、   胸が締め付けられるような体験話や光景が 毎日放映される。

現状は2001年9月11日に発生したアメリカ同時多発テロ事件をきっかけに、アメリカ史上最も長い戦争とも言われるアフガニスタンでの軍事作戦から始まった。2011年のブッシュ政権は国際テロ組織である「アルカイダ」の首謀者、オサマビンラディンを殺害し、 タリバンは2013年に、アフガニスタンの和平に向けて当時のアメリカのオバマ政権と水面下で接触を続けたほか、2018年からはトランプ大統領と和平交渉の協議を行い、2020年2月、タリバンがテロや戦闘に関わらないという条件下で、 アフガニスタンに駐留するアメリカ軍の14か月以内の完全撤退を和平合意に署名した。しかしタリバンはアフガニスタン各地で攻勢を強めて支配地域を拡大していった。  今年1月に発足したバイデン政権は期限を4か月余り延期して同時多発テロから20年となる今年の9月11日までに完全撤退させるとしていたが、 タリバンの要求である8月31日の期日に同意した。

アメリカをはじめ、北大西洋条約機構(NATO)の同盟諸国はこれまで20年間をかけて、アフガニスタン軍を訓練し、装備の充実に協力してきたとされているが、 タリバンの攻撃には抵抗出来なかった。  1994年に結成されたタリバンは 史上まだ新しいが勢力を伸ばしてきているし、 ISIS-Kのような他のテロ組織と手を組むのも時間の問題だろう。  2001年の多発テロ事件後に生まれ、  訓練を積み重ね今既に兵器を担ぐタリバンやISIS-Kとなっている者もいると思う。

不幸なことにテロとテロリストを根絶さえることは不可能である。   しかし今の事態は、  ここ20年間の見通しの甘さを思わす。  2020年の和平合意直後から徐々のアメリカ軍の撤退とアフガニスタン市民の脱出を事前に計画、 実行できたのではないだろうか?  出国時に必要な書類や事項などの事前の連絡と予備、 首都のカブールより遠方離れた地域での救助も可能ではなかったのではないだろうか?  タリバンはアメリカがアフガニスタン軍に提供した米軍ハンビー (高機動多用途装輪車両)、 機関銃、  迫撃砲、銃弾などを収奪しているが、 これらの武器なども事前に廃却出来ていたのではないだろうか。

政治家に頼らず自ら別のルートを使って救出作業を始めたアメリカ人のグループもある。  元アメリカ軍人、  アメリカ軍を支持する者達などで結成され、 プライベートジェットなどを使い 救助作業を手掛けている。  テレビのインタビューでも見たが、  他の諸国と協力しあいながら、  主に通訳としてアメリカ軍に尽くしたアフガニスタン達を移動させている。 但し皆の安否を気使い、 居場所、 名前、 その他の詳細は勿論放映、 公開されていない。

20年前よりアメリカ大統領は四回変わっている。  人間の命が関わっている事態は、 政党や政権の意見の食い違いや、  自尊心、 個人的な気持ちはさておき、  今後の政党や政権も受け継いでいけるような国としての一致した方策をあらかじめ練っておくのが、  上に立つ者の使命なのではないかと思う。

このアフガニスタンの現状の中、 真に上に立っている者とは、 命がけで市民の護衛をしているアメリカ軍、  義務を果たしながら命を失ったアメリカ兵士、  アメリカ軍を支え続けてきタリバンに捕まったら殺害されるのは目に見えていながらも、 今でも国と人民を助けることに尽くし続けたことを誇りに思っていると話すアフガニスタンの通訳、  政治家に頼らず自ら別のルートを使って救出作業を始めたアメリカ人のグループなのではないか。

 

随筆日:      8/25/2021
改訂日:      8/26/2021、 8/27/2021、 8/29/2021、 8/30/2021
投稿日:      8/29/2021、 8/30/2021
ウエッブ掲載: 9/03/2021

 

板橋恵理=関東地域で生まれる。家族の転勤と学校のため、幼年期から現在にいたるまで、日本ーヨーロッパー日本ーアメリカで生活する。現在は、アメリカ人の夫と老猫とロサンゼルスに在住している。趣味のひとつである太鼓にはまり、5年がたつ。老猫の名前もタイコ。

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