アメリカのヘイトクライム(Hate crime)、 レイシズム(Racism)とレイシスト(Racist): そうでなくとも犯罪は犯罪に変わりない

2021年3月22日、ロサンゼルスにて、板橋恵理

ヘイトクライム(Hate crime)、 レイシズム(Racism)、そしてレイシスト(Racist)いう用語を頻繁に見聞きするようになった。レイシズムは偏見や反感が動機となっている人種差別、それを主義する者がレイシストで、ヘイトクライムとは、  特定の人種とそのコミュニティーグループに対しての犯行と、メディアは呼ぶようになってきたようだ。

去年のコロナ禍以来、  色々な州でアジア人に対する犯行が頻繫にニュースで報道されている。  昼間の路上でアジア人を罵り暴行を与えたり、  レストランや店の窓に卑語をペイントで書きなぐり損害を起こしたり、  アジア系に偏見と反感を抱く、 いわゆるレイシストによるヘイトクライムと言えるだろう。

アジア系へのヘイトクライム数が急激に増加しているそうだが、  これは被害者やそのコミュニティーが、  ひと昔前よりもどんどん活発的に通報し発言していることもあると聞く。  コロナ以前犯行に遭った被害者は、どんな人種でも、  恐怖心、 恥、 面倒臭さ、 前科等から、  必ずしも警察やらコミュニティー関係者へ通報していたとは限らないし、 仕返しされる不安も多いにあったと思う。  反対に、  被害者がマイノリティー(Minority)人種であったからと、それが必ずしも人種差別が動機のへイトクライムだったとも、  かつそのように通報されたとも一概に言えぬし、  断言出来ぬこともあっただろう。

コロナ禍におき、  それが原因で職や家族を失った者もいれば、   コロナとは無関係に、  金銭問題を抱えたり、  親の離婚の間に挟まれたり、  恋人と別れることになったり、  いじめや嫌がらせを受けたり、  勉強についていけなかったり、 以前より葛藤していた様々なことが蓄積しこの環境下、  更に増大、  爆発し易くなってきており、  様々な犯行が発生しがちなのだそうだ。

しかしヘイトクライムは必ずしも人種に対しての犯行とは言い難いのではないか。   例えば 同じ人種同士でも、  いじめに関わった者、 ホモセクシュアル、  レズビアン、  トランスジェンダー、ホームレスなどの人々に対しての犯行もあるし、  最近は警官や政治家達に対しての暴動も絶えず、  これも一種のヘイトクライムと言えるのではないかと私は思う。

逆に加害者がマイノリティーの人種で、  被害者がノンーマイノリティー、アメリカでは白人で、或いは被害者が他のマイノリティー人種 だった場合も同様で、 よほどの証拠や証明がない限り、 人種差別が原因となった犯行とは言い切れない場合も中には多く存在すると思う。

人種の異なる被害者と加害者が関わっている事件を、  社会はどうしてもレイシストに依るヘイトクライムと即結びつける傾向があるような気がする。勿論そう証明し断言出来る場合も多いにあるだろうが、犯罪は犯罪に変わりなく対応されねばならない。

例えば警官に依る、マイノリティー人種の容疑者や犯人の対応問題を頻繁にニュースで見聞きする。勿論、警官に依る犯行や汚職事件もあるが、容疑者や犯人が逃亡中に、追跡してくる警官に向かい銃らしき武器を振りかざし、警官に撃たれ死ねば、容疑者や犯人の家族は警官をレイシストと叫び、ヘイトクライムと結びつけ警察を告訴する。元々追跡されるようなことを犯したのはどっちか、そして例え本物の銃でないにしろ、何故、武器を振りかざしたのかとは誰も疑問にも口にもしない。相手が精神病者だったにしても、警官は事前には分からないことだ。「警官だって誰かの息子や娘。我々市民を守る為に命がけで仕事をしているから大変だね」と母が生前よく言っていたが頷ける。

タレントやテレビ番組のホストの中でも、決して差別的な意図がなくただ単に人種関係のコメントや言葉を発したのが理由で即レイシストと呼ばれ、どんな過去のいきさつや事態があっただろうと、説明や謝罪をしても、お構いなしにクビになったり辞職せざる得なかった者が大勢いる。お互いの立場や気持ちを分かち合い、理解しようとする話し合いも姿勢もないので、何も解決しないし亀裂が残るだけで、差別を解消するどころか更に差別が生まれ悪化する。

例え親しいと思っていた間柄でも、冗談も下手に言えない過激な世の中になってきている。身近な例を挙げると、知人は以前働いていた職場で、あるマイノリティー人種の同僚が着ていたシャツを誉めるつもりで、「そのシャツ、貴方の肌の色と目の色にとてもよく似合っていて素敵」と言ったが、相手は人種差別的なコメントと受け、話し合いも持たずに即人事課ヘ通報し、  それまで親しくしていた友情が瞬く間に失われた。

私は幼児の頃からベルギー、日本、そしてアメリカと三国での生活を経験しているが、母国である日本でも、  規模は小さいだろうが外観と言葉の問題でいじめや差別を体験した。ベルギーから帰国直後、日本語があやふやで、かつ当時私は白人のようにそばかすが顔中に散らばっていたせいか、「顔に点が散らばっている日本語が出来ない変な日本人」といじめや仲間外れに遭い、 遊びや遠足のグループに入れてもらえないこともあった。

かつクラスの問題児が卑語を発しながら、皆が見ていない時に急に背中やお腹を蹴ったりしてきた。当時は聞いたことも思ったこともない言葉だったが、今の社会ではこれらもレイシストに依る言動と断定されるのだろうか? としたら、日本人レイシストに依る同じ日本人に対しての「レイシズム」となるのだろうか?

だいぶ前の話になるが、ボランティアとして警察SWAT(Special Weapons and Tactics Team)の率いる訓練に参加したことがある。我々ボランティア達は、職場での集団襲撃殺人事件を想定し、あちこち逃げ隠れする役割を与えられた。SWATチームは五階建てのビルを一階ごとに何時間もかけ、ひと部屋ずつくまなく生存者と容疑者を探すのだが、机の下などに隠れている我々を見つけると直ちに銃をあて、両手を上げらされ、容疑者について色々と質問をしてくる。

早急な皆の安全の確保と容疑者逮捕、そして被害を最小限にとどめる為にも各自の目撃したことをなるべく的確に説明することが大事で、それには容疑者の肌や髪の毛の色、顔、身長、体重、言葉のアクセントの有無、 その他と率直な外観描写が重要になってくる。それがレイシストなどとレッテルを貼られる場合ではなかった。

アメリカの歴史上、 様々な人種の集まる学校、映画館、レストラン等、  公共の場で発生した集団襲撃、 殺人事件は悲しいことに何件も発生している。  被害者や加害者の人種が何であれ、  そして加害者の動機が何であれ、  これらもヘイトクライムなのではないだろうか。

しかしメディアは、   正式な法的な裏付けが明確にされていなくても人種が違うだけで、即ヘイトクライムとほのめかす傾向があるように見受けられる。それは逆に、  そして更に、 人種同士に亀裂を起こしていくことになるのではないかと心配している。  犯罪は犯罪であることに変わりなく、 多くの場合、正当防衛は別にして、何かしらのヘイト心、人種に対してとは限らない、 が動機になっていると思う。 被害者の人種、性別、国籍等が何であれ、的確なニュースと真実を流し、皆が犯行防止に努めていかねばならないのではないだろうか。

板橋恵理=関東地域で生まれる。家族の転勤と学校のため、幼年期から現在にいたるまで、日本ーヨーロッパー日本ーアメリカで生活する。現在は、アメリカ人の夫と老猫とロサンゼルスに在住している。趣味のひとつである太鼓にはまり、5年がたつ。老猫の名前もタイコ。

板橋恵理のカリフォルニア人間観察(エッセイ一覧)

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