福島第一原子力発電所の炉心溶解について、東京の知人から、米国政府が、自国民により広範な避難勧告をしているのは、米国が重要な情報を持っていて、日本政府は、それを隠しているのではないか、という質問を受けた。わたしは、日本政府や東京電力は、重要情報を隠してはいない、と思っている。

福島原発問題について、米国政府が、日本政府よりも、事態がより深刻と判断をくだしているのは、日本人とアメリカ人の分析方法の違い、思考法の違いから来るものだ。そして、問題の当事国と、外から重大事態を見ている立場の違いによるものだ。

アメリカ人は、物事を考えるときに、その結果、最終的にどうなるのか、という結果予測を立てるのが、ひじょうにうまい。砂漠の中に出現する100万都市ラスベガスを訪れたり、やはり砂漠の中に建設された巨大なアリゾナ州フェニックスの空港を利用するたびに、アメリカ人には壮大な構想力があることを思い知らされる。アメリカ人には、途中のこまごました過程をある程度、無視して、大きな流れを把握する力がある。

日本人は、逆に、大きな構想力には欠けるが、目標が設定されたときの、こまごました過程を、実に綿密に実行していく力を持っている。これは、日本人が、アメリカ人よりも優れている面だ。

福島原発問題では、米国政府が元にしているのは、日本政府や東京電力が発表したデータだ。それで、米国政府は、最悪のシナリオを想定して、米国市民の避難計画を立てたり、対応策を作っている。現場の日本では、政府やNHKが、最悪のシナリオを公表することはできない。そんなことをすれば、日本全体が大パニックが生じるからだ。

日本政府と東京電力は、見通しはあまり言わず、とにかく、目の前にある炉心溶解を起こしている原子炉や、使用済み核燃料棒プールへの注水や、高圧電線を原発まで引き込み、電源回復し、原発全体の冷却システムが復活させることに全力をあげている。

18日付けの「大前研一イノベーション・メールマガジン」は、1)現状は福島第一原発に関して全てを放棄して現場を離れるしかない。2)制御できないだけでなく、 制御しようと人が近づくことさえできない状態にあると見るのが妥当だ。3)恐らく致死量に達していると思われる原子炉周辺に作業員を送り込むことは良識ある判断とは言えない。--- と主張している。アメリカ型経営に精通した大前氏の主張からは、アメリカ人の判断を読み取ることができる。

しかし、現場は、日本である、決断・実行するのは、日本人だ。日本人が自らの力を信じて、最善の選択をすることに、希望を託したい。

(3月18日、カルチュラル・ニュース編集長、東 繁春)