嶋幸佑が選んだ今日のアメリカ俳句(2019年10月30日)

「ふたたびは来る当のなき墓洗ふ」山口牧村(ハリウッド)

作者は、現存する俳句結社としては、日本国外では最古の「橘吟社」(ロサンゼルス、1922年創立)の会計/幹事、機関誌編集主任、雑詠選者、そして主宰を歴任し、陰となり日向となり、長年にわたって同吟社の発展に尽くした。1996年に死去。掲句は、1971年に訪日し、郷里・福井県の墓参りをした時の一句。当時はまだ、日米間の行き来は今のようには行かず、また、自身の年齢も考えて、いつまた訪日できるか分からない情況だった。作者には「故郷発つ墓参も今を納めとて」もあるが、墓を洗いながら両親に最後の別れを告げている心境がしみじみと伝わってくる掲句を採った。

【季語】墓洗ふ=秋、妻・明里さんとの夫婦句集「ハリウッド」(1981年)より

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嶋幸佑(しま・こうすけ)ロサンゼルス在留40年。伝統俳句結社の大手「田鶴」(宝塚市、水田むつみ主宰)米国支部の会員。ロサンゼルスの新聞「日刊サン」のポエムタウン俳句選者。

今から百年近く前、アメリカに俳句を根付かせようと、庭師や歯科医など各種の職業に就いていた日本人、主にロサンゼルス地区居住の俳人らが、日本流の風雅を詠うのではではなく、アメリカの風俗・風土の中に、自分たちの俳句の確立を目指していた。

このコーナー「嶋幸佑のアメリカ俳句鑑賞」は、そうした先人の姿勢を、現在に引き継ぐ試み。今でも多種多様な職業の人たちがアメリカで俳句を詠んでいるが、それぞれの俳句の、いわゆる「アメリカ俳句」としての立ち位置も読み解く。

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