今日のロサンゼルス:嶋幸祐が選んだアメリカ俳句「霾(つち)荒ぶ星条旗下に子を捧ぐ」

嶋幸祐が選んだ今日のアメリカ俳句(2019年10月8日)
「霾(つち)荒ぶ星条旗下に子を捧ぐ」古田利子

太平洋戦争時、日系人12万人が強制収容所に送られた。そこから、兵役を志願して戦地に向かう若い二世も大勢いた。そのわが子を、星条旗下に「捧ぐ」と詠んだ一世の母親の切実な思い。霾荒ぶは、作者の心そのものである。

【季語】霾=春

「冬椿ここにも老いし移民妻」井川五橋

自分を「移民」と意識する。それは異国の地に骨を埋める覚悟に結びつく意識だ。裏庭に佇つ妻の姿に、早咲きの椿の凛とした姿が重なる。「ここにも」の「ここ」は作者自身のことではないか。老いた自分を見ながら、その自分に付き添ってきた妻への深い労わりの情がある。

【季語】冬椿=冬

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嶋幸佑(しま・こうすけ)ロサンゼルス在留40年。伝統俳句結社の大手「田鶴」(宝塚市、水田むつみ主宰)米国支部の会員。ロサンゼルスの新聞「日刊サン」のポエムタウン俳句選者。

今から百年近く前、アメリカに俳句を根付かせようと、庭師や歯科医など各種の職業に就いていた日本人、主にロサンゼルス地区居住の俳人らが、日本流の風雅を詠うのではではなく、アメリカの風俗・風土の中に、自分たちの俳句の確立を目指していた。

このコーナー「嶋幸佑が選んだアメリカ俳句」は、そうした先人の姿勢を、現在に引き継ぐ試み。今でも多種多様な職業の人たちがアメリカで俳句を詠んでいるが、それぞれの俳句の、いわゆる「アメリカ俳句」としての立ち位置も読み解く。