2015/ロサンゼルス日系社会の最大の危機=「敬老」高齢者施設の不動産会社への売却

 

コミュニティー集会のお知らせ

10月13日火曜日、午後6時から8時まで Centenary United Methodist Church, 300 South Central Ave, Los Angeles, CA 90013, 「敬老を守る会」の集まりです。公開ミーティングで、誰でも参加できます。www.savekeiro.org

10月15日木曜日、午後6時から8時まで、Nishi Hongwanji Temple, 815 East First Street, Los Angeles, CA 90012, 「敬老シニア・ヘルスケア」マネージメント側による説明会です。公開ミーティングで、誰でも参加できます。www.keiro.org

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カルチュラル・ニュース編集長、東 繁春から

わたしは、現在61歳です。1981年に27歳の時、ロサンゼルスの日刊新聞社「加州毎日新聞」で取材記者の仕事を始めて以来、30年以上にわたってロサンゼルスで報道の仕事にたずさわってきました。現在のロサンゼルス日系社会は、第二次大戦中の日系人強制収容、以来の最大の危機を迎えています。

その理由は、みなさんご存知の「敬老引退者ホーム」をはじめとする計4施設の売却です。「敬老」4施設を運営する非営利法人「敬老シニア・ヘルスケア」は、2年前に、4施設すべての売却を決定しました。

2014年7月には一度、エンザイン社との売却交渉がまとまりましたが、この交渉は、その後、カリフォルニア州司法長官が不許可としました。

「敬老」マネージメントは、再度、売却先を探し、今年に入って不動産会社パシフィカ社に41ミリオン(約41億円)で売却することがまとまり、9月8日までには、カリフォルニア州司法長官の許可を得て、現在、売却手続きは、最終段階のエスクローに入っています。

「敬老シニア・ヘルスケア」は、1961年に「敬老サービス」として設立され、ボイルハイツに「敬老引退者ホーム」(127ユニット)と「敬老中間看護施設」(90床)、リンカンハイツに「敬老ナーシング・ホーム」(300床)、ガーデナに「サウスベイ敬老ナーシング・ホーム」(98床)の4施設を運営しています。

設立のとき、中心になったのが「東京にオリンピックを呼んだ男」として有名な和田勇さんです。

「敬老シニア・ヘルスケア」の2010年度の年間予算は32ミリオン(約32億円)で、収入の60から70%がメディケア(連邦政府)とメディケイド(カリフォルニア州政府)の社会福祉プログラムの支払いです。

ショーン三宅氏がプレジデント兼CEOを務める現在の「敬老シニア・ヘルスケア」のマネージメントは、連邦政府、州政府の社会福祉予算が削減されていくこと、日系社会から今後は、大きな寄付が見込めないという判断から、2年前に4施設の売却を決定し、公表しています。

わたし自身も、2年前から「敬老が売却される」という噂は聞いていましたが、不覚にも「敬老」の発表文を読んだり、売却についての調査はしませんでした。日系社会のリーダー役と見られている日系商工会議所の役員たちや、会員数の多い県人会の役員たちも「敬老が売却される」話は聞いていたと思いますし、中には、ウエッブサイトで、調べたという方と話をしたこともあります。

しかし、「敬老施設売却」問題は、この9月になるまで、ロサンゼルス日系社会では、誰も(わたし自身も含めて)手を触れようとしませんでした。

わたしが、「敬老施設売却」問題を、戦時日系強制収容、以来のロサンゼルス日系コミュニティー最大の危機と見ているのは、ロサンゼルスには、かなり大きな土地と建物を持つ、日系コミュニティー・センターが約10カ所あるからです。

今回の「敬老」のやり方は、これから10年、20年にわたって、こうした地域の日系コミュニティー・センターの運営に影響を与えます。「敬老」のやり方が通ってしまえば、地域のコミュニティー・センターへの日系人の関心は薄れ、寄付も減って行きます。

「敬老」の問題が、どうして、このように日系社会で関心がもたれなくなったのか、そのことを考えたとき、「敬老」のスポークスマン役だった妙中俊彦さんの顔が浮かびます。

妙中さんは、2005年7月に78歳で亡くなられるまで、「敬老」の広告塔を自ら名乗られ、ロサンゼルスの日系社会(ここでは、狭い意味で、日本生まれで、日本語をしゃべる日本人)とのパイプ役を果たしていました。当時、妙中さんと話をすると「敬老」の運営について聞くことができました。

妙中さんのようにパイプ役を果たすひとが無くなると「敬老」マネージメントは日系社会(これは広い意味のアメリカ生まれの日系人も、狭い意味の日本生まれの日本人も含めて)の手を離れて、一握りの三世・四世世代が動かすようになりました。

「敬老」施設は、日系人が日系人のために作った高齢者の介護サービスと言ってきましたが、これは、アメリカに住む日本人が、その日本人のために作ったと、言うこともできます。

「敬老シニア・ヘルスケア」の将来の運営が容易ではないことは、誰の立場でも理解できます。しかし、その困難にどう対処すべきは、日本人と三世・四世の立場では当然、違ってきます。

アメリカに半世紀以上も住み、英語が流暢だった日本人がストロークで、言語障害を起こすと、母国語つまり、日本語しかしゃべれなくなります。また、言語セラピーの基本は、母国語でしゃべる練習をすることです。

つまり、アメリカで暮らす日本人にとっては、日本人のための介護施設は絶対に必要です。しかし、三世・四世たちには母国語が英語ですから、彼らにはその切実さは、理解できないようです。

「敬老シニア・ヘルスケア」マネージメントが、健全財政のうちに施設を売却し、その売却益約40ミリオンをより有効に使おうという理屈も、いかにもアメリカ人らしいと思います。

しかし、原点に戻ってみれば、50年以上前に先人たちが「敬老」を作ったのは、資金があったからではなく、日本人のための介護施設の必要があったからで、そのために、和田さんたちは、個人的負債を負って「敬老」を設立しています。

「敬老シニア・ヘルスケア」とパシフィカ社との契約によれば、5年間は現在のサービスが維持されますが、その後は、パシフィカ社の自由裁量です。パシフィカ社は、メインの仕事が不動産会社ですから、近年のロサンゼルスでの土地の値上がりを見ていますと、5年後には、ボイルハイツの引退者ホームが、高層マンションに建て替えらる可能性も考えられます。

5年先のことが不確定なため、「敬老引退者ホーム」の居住者の中には、5年以内に死にたい、という人まで出ています。多くの居住者が将来への不安を持つようになったのが、現在進行中の「敬老施設売却」の結果です。

Dysfunctional Family という言葉があります。心理学の用語ですが、子供の本当の欲求を理解できず、虐待をしてしまう親や家庭を意味します。現在のロサンゼルス日系社会は Dysfunctional Communityといわざるを得ません。

幸い、9月になって、羅府新報の新人記者、中西奈緒さんが「敬老売却」問題の記事(www.rafu.com )を書き始め、また、長年、日系コミュニティー活動のコーディネーター役をやってきた井川いつきさんの呼びかけで「敬老を守る会」(www.savekeiro.org ) の活動が始まりました。

最近、10年、20年以上ロサンゼルスに住んでいた日本人の知り合いから、老後の生活のために、日本に帰りますという話を聞くことが多くなりました。

アメリカに暮らす日本人の老後オプションは、ひとつでは無くなったわけです。しかし、全体的に見ると、アメリカで老後をすごすことを選択する日本人の方が多いと思います。

「敬老売却」問題は、ロサンゼルス日系社会がDysfunctional Community から立ち直り、さらに発展することができるのか、あるいは日系社会が解体、消滅に向かうターニングポイントだったと数十年後に判断されるのかどうか、たいへん大きな課題を、わたしたちに突きつけています。

カルチュラル・ニュース編集長、東 繁春

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